2012年07月21日
腸内細菌の意外な役割

皆さんは、イソフラボンという名前を聞いたことがありますでしょうか。多くの人は大豆に含まれる身体に良い成分というようなイメージを持っているのだと思います。
よく言われているのは、抗酸化作用やコレステロール低下作用、さらにホルモン依存性が高いと言われる前立腺がんや乳がんの予防効果について期待されているということなのですが、このイソフラボンがどのように人間の身体に作用するのかの研究が進むにつれてメカニズムも徐々に解明されてきたようです。
今年6月に神戸で行われた、第16回日本腸内細菌学界で発表された内容によると、大豆イソフラボンが身体に良いというのは、イソフラボンが直接、人間の身体に作用するのではなく、大豆などを食べて消化されるなかで「エコール」という物質がつくられ、この「エコール」がエストロゲンのような作用をするためにホルモン依存性の疾病の予防に有用と考えられるということのようなのです。
どんな食べ物でも体内で消化されるときに特定の酵素が必要になってきます。以前にも記しましたが、昆虫などの他の生物が極端に偏食なのは、生まれながらにして何らかの方法で特定の食べ物の栄養素を吸収する術を得ることによって、他の種と食べ物の競合を避けることで、生命維持活動の向上を図っていからです。
当然、人間もイソフラボンを消化してエコールが生成するための酵素が必要なのですが、どうやらイソフラボンからエコールを生成するための酵素は人間は持っていないということも同時に分かっているのです。
それなら、一体誰が「エコール」をつくっているのかという話に当然なるわけです。
今回の発表では、スラッキア・ナッツ株(Slackia sp.NATTS株)という腸内細菌がその役割をしているらしいということが、分子レベルで解明できたというものでした。
この研究結果は、腸内細菌の人の健康に対する可能性を広げる意味では大きな成果なのだと思います。
腸内細菌の世界も単純に「良い菌」「悪い菌」という図式をついつい当てはめがちであるが、現在把握されている乳酸菌の種類だけでも2万種以上のものがあるとされています。その中でも人間の身体に良い作用をするものがいれば、悪い作用をするものもいるということも現実です。
しかし、この現状も研究が進むにつれて「良い」とか「悪い」という立場すら逆転する可能性も皆無ではないということも常に考えなければならないと思います。
つまり、「健康に良い」という言葉に対して、高い再現性に基づいた科学的な根拠という「重い責任」が伴うものなのかも知れません。
Posted by toyohiko at 14:28│Comments(0)
│身体のしくみ
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