2012年01月28日
感染予防と腸内細菌

この季節は、風邪やインフルエンザ、様々な感染症にかかるリスクの多い季節です。当然、皆さんもこのような感染症にかかりたくないと思いますが、スポーツ選手など生活の糧として身体そのものを使っている人たちは、もっとその思いは強いと思います。
実際、軽い病気であってもトレーニングの障害となって競技に対するパフォーマンスを弱めてしまい、競技ができなくなってしまうこともあるために、「風邪などをうつされたくない。」と思うスポーツ選手は非常に多いそうです。
スポーツ選手が、その様な事を気にかけるのにはもう一つ理由があります。楽しむためのスポーツのレベルであればあまり問題ないのですが、身体の力を限界まで引き出し、酷使するようなプロスポーツの世界では、場合によって身体の免疫力が低下してしまう場合があるからです。
実際マラソンランナーなどは、フルマラソンの直後に免疫力が著しく低下し、その後1週間ほどかけて徐々に回復し元のレベルに戻るという結果もあるようです。
一般的に風邪やインフルエンザ、マイコプラズマなどの感染症は、おもに鼻とのどに症状が出るために上気道感染症と呼ばれます。当然のことながら感染症なので細菌もしくは、ウィルスが鼻か口から気道内に侵入し炎症という形で症状が出始めます。
その症状が出ないように、人間の体は免疫細胞や抗体がバリアとなって感染を防ぐようにできています。中でも口腔内や鼻腔内では、唾液や鼻汁に含まれる免疫グロブリンA(IgA)という抗体が感染症のウィルスなどを働きをするといわれています。
一つの事例として、イギリス ラフバラ大学のグリーソン教授が、上気道内(鼻やのど)のIgA抗体の産生量が腸内細菌によって増加し、上気道感染症(いわゆる風邪)の発症率が低減する効果について、国際的な科学雑誌「International Journal of Sport Nutrition & Exercise Metabolism」の電子版で研究結果を報告をしてます。
内容としては、同大学の免疫機能が低下して感染リスクが高まる傾向の強い持久系スポーツ選手である、自転車部、トライアスロン部、陸上部(中長距離走)、水泳部等に所属する運動選手を対象に、L.カゼイ YIT 9029株を含むヨーロッパで市販されている乳酸菌飲料を1日2本、16週間の飲用試験を実施し、84名を対象に飲用群とプラセボ飲用群との上気道感染症の発症率や免疫パラメーターに対する影響を比較したというものです。
その結果、試験期間中、上気道感染症状が1週間以上続いた被験者の割合は、L.カゼイ YIT 9029株を含む乳酸菌飲料飲用群(66%)が、プラセボ飲用群(90%)よりも有意に低く、また、唾液中のIgA抗体濃度が、継続的な激しい運動により低下するが、L.カゼイ YIT 9029株を含む乳酸菌飲料の飲用により、プラセボ飲用群よりも有意に高くIgA抗体濃度が維持されたという研究結果が報告されています。
東京大学大学院の農学生命科学研究科の八村敏志助教授によると、このIgAという抗体は、小腸の繊毛の粘液中にも多く存在し、腸内での病原性細菌を防ぐバリアとなっていると同時に、腸内細菌のコントロールにも関わっているということが明らかになってきたとしています。
腸内には、IgAをはじめとする色々な抗体や免疫細胞が集まっていますが、腸の中にあるパイエル板というところから腸内細菌が取り込まれることによって、様々な免疫バランスや必要な抗体の産生に大きく関わってきているというメカニズムも次第に明らかになってきています。
「たかがお腹、されどお腹・・・」ということを改めて感じます。
これからも、もっと色々なメカニズムが分かってくることによって自分専用の腸内細菌を飲料やサプリメントにして飲む・・・なんて時代もそんなに遠くないかもしれません。
Posted by toyohiko at 14:43│Comments(0)
│身体のしくみ
※会員のみコメントを受け付けております、ログインが必要です。