2011年12月29日
新生児と腸内細菌

無菌状態の新生児にとって、これから生涯を通じて共生関係を築いていく微生物との出会いは大変重要な問題です。しかも、生後1カ月という期間が最も重要だと考えられています。
この時期に微生物の定着に不具合があったりすると、人間と微生物との間に、正常且つ有効な共生関係を築くことができずに、場合によっては重篤な病気になってしまうこともあるようです。
特に新生児の時期に外科手術の必要な場合は、大変だったようです。新生児外科の歴史は、日本でも50年以上になりますが、その中で多くの子供たちが救命できるように進歩をしてきた一方で、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や多剤耐性緑膿金などの抗生物質耐性菌の出現によって多くの患者が、腸炎などの重症感染症に悩まされるようになってきました。
東京大学医学部付属病院小児外科の金森豊氏によると、新生児で疾患を持っている子たちは手術治療によるストレスや抗生物質の使用、経腸栄養の制限などがあり、正常な腸内細菌叢ではなく、いわゆる、悪玉菌の優勢なお腹になっているために、免疫異常や感染症にかかりやすいといわれていました。
実際に1997年当時、繰り返す感染症で治療が困難であった、外科治療が必要なほとんど例外なくと言っていいほど、新生児の腸内細菌叢が極めて異常であったことがわかったのです。
その特徴としては、通常は検出されない緑膿菌(Pseudomonas)やカンジタ菌が多くみられ、このころであれば優勢なはずの、ビフィズス菌やバクテロイディス、ラクトバチルスなどの菌が通常より少なかったということです。
腸の状態が良くないということは、栄養が十分に摂取できずに順調な成長が(体重増加)が見られないということにもなります。金森氏らは、10年以上にわたって、シンバイオティクス療法という手法を使って新生児の重症疾患患者の腸内細菌叢を改善することで、治療の効果の改善が図れないかどうかの研究をしています。
シンバイオティクス療法というのは、プロバイオティクスと呼ばれる善玉菌とプレバイオティクスと呼ばれる難消化性の食品成分と同時に処方して、腸内細菌叢の改善を図るというものです。
つまり、お腹の中の善玉菌を優勢にするために善玉菌そのものと、善玉菌が餌として好む難消化性の成分をお腹の中に送り込むという治療法です。
実際に、短腸症のような腸内の感染リスクの高い難病の事例などでも、このシンバイオティクス療法によって栄養状態が改善した事例や、手術による気管の切開などの理由により、気管切開チューブをつつけているために、上気道から病原性微生物が消化管内に入り込んでしまった事例など、様々な場面での成果もあるようです。
ある程度、成長し「こども」と言えるくらいに成長してくれば、腸管免疫の仕組みも含め基礎体力や抵抗力もできてくるのですが、新生児期の病気と腸内細菌叢の関係を知ることによって、腸内環境の大切さを改めて考えさせられます。
Posted by toyohiko at 16:11│Comments(0)
│身体のしくみ
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