2024年10月25日
ストレスと感染症との関係を考える

ストレスがかかる状況で、「お腹の調子が悪くなる・・・」というような話は、よく耳にするのと同時に、脳腸相関という考え方が広まることによって科学的なメカニズムについても次第に明らかになってきました。
また、腸内細菌叢と免疫システムとの関係も、食物含め外界から様々なものが入ってくる「内なる外」と言われる消化器官に身体における免疫システムの半分以上が集中していることも既に解ってきています。
さらに、ストレスと免疫システムとの関係性に於いて腸内細菌叢が大きく関わっていることも多くの研究者の関心事になりつつあります。
例えば小腸には、パネート細胞という細胞があるのですが、そのパネート細胞が抗菌ペプチドαディフェンシンなどの分泌顆粒を放出して病原体を排除したり、幹細胞増殖因子の産生により上皮幹細胞を維持することが知られています。
また、そのパネート細胞は腸内細菌叢の構成員とされる共生微生物を見分けて外敵である微生物のみを攻撃することが出来るようになっていることで、腸内細菌叢を守っているのです。
つまり、ディフェンシンが上手く分泌されない状況になる事で、小腸内を外敵とされる微生物が通過してしまい腸内細菌叢のバランスの乱れを引き起こし、炎症性腸疾患などにつながることが指摘されています。
このディフェンシンの分泌量については、うつ病モデルマウスにストレスを与える実験に於いてストレスが低下の大きな原因であることが明らかになっています。
そもそも、ストレスの情報を処理するのは脳であるため、このようなストレスに関する研究成果から、脳腸相関に腸内細菌叢が関与しているのではないかと考えられるようになってきたと言われています。
アカゲザルの親子に対して、赤ちゃんとの分離というストレスを与える実験では、母子分離後3日目から赤ちゃんの腸内細菌叢の変化が見られたという報告もあります。
その報告では、善玉菌の代表選手でもある乳酸菌の減少と共に、頻繁に奇声を上げたり、活動や意欲の低下などのストレス行動と言われる行動パターンがみられるようになったというのです。
更に、妊娠したアカゲザルに6週間にわたり毎日10分間、大都市の騒音と同じような大音量の警報音を断続的に聞かせるという方法でストレス与える実験では、生まれた赤ちゃんアカゲザルの糞便中の腸内細菌において乳酸菌やビフィズス菌の善玉菌と追われる腸内細菌が有意に減少していたという結果もあり、ストレスは本人のみならず世代を越えて影響を及ぼす可能性が明らかになっています。
ヒトも動物である以上、気温や気圧、さらには音などの環境要因によって大きなストレスを受けるということは、前提にはなりますが、精神的なものも含めたストレスは脳で感じるということからすれば、ストレスによって腸内細菌叢に影響が及ぶということは、脳腸相関の考え方を裏付けるものであるとともに、腸に集中しているとされる免疫システムにも影響を及ぼすことで、ストレスの増大は、感染症のリスクの増大にもつながってくるということは想像に難くありません。
そのためにも、季節の変わり目や急激な天候の変化ヘの備えをはじめ、ストレスを溜め込まない「思考の癖」と「お腹の調子を整える」という、腸内環境の維持向上は、これからの季節の感染症の予防にもつながるのかもしれません。
2024年10月18日
腸内環境は何故悪くなってしまうのか・・・?

腸内フローラという言葉が、あちらこちらで聞かれるようになり腸内細菌の重要性が注目されつつあります。
その理由の一つとして、ヒトは食べたものを全て消化・吸収できないためにそのお手伝いをしてもらっているからです。本来、消化・吸収できないものを共生微生物である様々な腸内細菌が消化吸収してくれるだけでなく、自身の健康の維持増進のために必要な成分をつくり出してくれるという役割をしていることが近年の研究で次第に明らかになってきました。
そのような中、解ってきたことが遺伝子レベルでは、2.2万個と言われているヒトの遺伝子の数に対して、腸内に存在する共生微生物の遺伝子の数を合計すると約2,000万個と千倍近い量があることからもヒトの健康維持に対して大きな影響を及ぼしていることが推察されるということです。
また、腸内環境と呼ばれる、様々な腸内細菌によって構成されるその状況は、ありとあらゆるきっかけによって変化するとされています。
まずは、食事の内容です。腸内細菌も生きていますので当然のように、栄養を摂取する必要があります。そして、善玉菌と呼ばれるグループと悪玉菌と呼ばれるグループでは摂取する栄養素は異なりますので、宿主であるヒトの食事の内容に大きく左右されます。
近年では、宿主である食の嗜好が腸内環境に影響を与えるのではなく、腸内環境と呼ばれる腸内細菌の構成によって食の嗜好が左右されるという話すらあるようです。
次は、加齢による影響です。よく知られているのは、善玉菌の代表選手であるビフィズス菌は授乳期をピークに加齢とともに低下していく事が知られています。
その他にも、腸内環境と呼ばれる腸内細菌同士の勢力争いは、あらゆる刺激によって変化すると言われています。
例えばストレスについても、それによって分泌されるホルモンや神経伝達物質などの相互作用によって腸内環境が変化することも解ってきています。
そのような中、食事、や精神的ストレスなどの生活習慣や加齢以上に大きな影響を与えるのが治療薬であることが、多くの研究によって明らかになりつつあるようです。
ある研究によれば、食事や運動などの生活習慣よりも3倍にも上る影響があるという結果もあります。
さらに、炎症性腸疾患、HIV感染、糖尿病、うつ病、慢性肝炎などの疾患による影響を越えるとすら言われ始めている様なのです。
東京大学大学院総合文化研究科の坪井貴司教授は、著書「腸と脳」の科学の中で、あらゆる治療薬がある中で、「消化器疾患治療薬、糖尿病治療薬、抗菌剤、抗血栓薬、循環器疾患治療薬、脳神経疾患治療薬、抗がん剤の順で、腸内マイクロバイオータの組成に影響を与えている・・・」と述べています。
そして、消化器疾患治療薬の中では、飲みすぎや食べすぎによって胃が痛いときに飲む胃薬やタンパク質の摂取が困難な場合に腸から投与する輸液、そして肝機能が低下して脂肪の吸収力が低下している時や胆石を溶解させるための胆汁促進剤の影響が高いことがわかってきたというのです。
さらに、多剤と呼ばれる複数の治療薬を処方されているケースについては更に大きな影響があるとしています。つまり、同時に投与された薬剤の数が増加すればするほど、酪酸や酢酸といった短鎖脂肪酸を産生する菌種が減少するというような報告があると同時に、投与する薬剤の数を減らすことで、腸内マイクロバイオータへの影響も減らし、腸内環境を改善できることも明らかになりつつあるようです。
腸内環境と言っても、なかなか可視化できるようなものではないと思う方も多いと思いますが、毎日の色や臭い、量や形を意識することで多くの情報が得られることを改めて理解しておく必要があると思います。
例えば、便の色は胆汁酸が腸内環境によって色が変わることで決まるリトマス試験紙のようなものだと言われており、酸性に傾くほど黄色みが強くなり、アルカリ性に傾くというほど茶色みが増し、黒褐色になるという性質があります。
「便は、身体のお便り・・・」というように、毎日同じ色や形の便が出てくることはありません・・・。
その時々のコンディションをつぶさに確認できる、大切な情報源であるという意識をもって、なるべく薬を飲まなくても済むような生活習慣の改善から始めることが健腸長寿に繋がるための一つになるのかもしれませんね。
2024年10月11日
「名もなき家事」について考える

「名もなき家事」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。例えば、炊事・洗濯というような家事を「いつ、だれがやっているか・・・」は、比較的わかりやすいのですが、洗剤が無くならないようにあらかじめ買っておくことや、補充したりすることについては、一度もやったことないけど、いつも使えるようになっているということはありませんでしょうか。
このように、一見、大したことない・・・と思われるような事も、全体が円滑に回る・・・という意味において大変重要な役割をしており、そこが抜けてしまうことですべてが中断してしまったりするような、日常的なこまごまとした「やらなければいけない事・・・」を指して、「名もなき・・・」という形容をつけるようです。
このような、一見注目に値しないような役割は、家庭内だけでなくどんなコミュニティにおいても発生していますし、新たに発生し続けているのが現状です。
仕事であれば、「フォロー」というような表現になるのかもしれませんが、その「名もなきフォロー」は、気が利く人の善意によって支えられていることが多いのではないでしょうか。
しかも、そのような「名もなき・・・」という行為が多くなるにつれて、そのコミュニティに属する人たちの心のゆとりが無くなってくるとともに関係性が壊れるきっかけになり易いと言われています。
職場であれば、いままでやっていたことが休職や退職によって、一人当たりの業務量が増えているけど、「何となく、気が付く人がやってしまうことで何とか回している・・・」とか、「お互いに手いっぱいで、見て見ぬふりをしてほったらかしている・・・」という状況に陥ったりしていませんでしょうか。
その結果、当然ながら「これは自分の仕事じゃない」、「この仕事は、あの人に任せられない」、「この業務について、なにも聞いていない」、「自分の業務をわたしたくない」というような言葉が多くなってくると、「なんで自分が・・・」という理不尽な気持ちが高まり、お互いの気持ちの中で対立や衝突が起こりやすくなります。
本来であれば、こんな状態の時こそ、「やって欲しいこと、と任せて欲しいこと」が明確になっているのが理想なのですが、現実にはそう簡単にはいきませんし、やって欲しいことと任せて欲しいことの境界線を引き直し続けることが出来るには、そこに関わる人たちがお互いに心理的安全性が高い関係を保ち続けている必要があります。
その一方で、無意識のバイアスと圧力によって決まっていることも多々あります。
正当な理由がないのに年齢や性別などの属性で「やるべき」「やるべきではない」と決めつけられるという旧態依然とした差別意識によるストレスがあることもあります。
職場などでは、他の人がアイディアを出すだけで、「こまごまとした調整がいつも自分に回ってくる・・・」というような事も「いつも、お膳立てばかりやらされる・・・」という気持ちになり易くなります。
更に、「これは、私の考えたアイディアだ・・・」というような立ち振る舞いが重なることで、「お膳立てばかりでなく、手柄までも・・・」と搾取されているという感情が湧きあがってくることもあるかと思います。
このような、状況に陥り易い遠因として、日本文化に根付いている「おもてなしの心」があるとされています。この「おもてなしの心」は、豊富でゆとりある労働力を前提に成り立っていましたので、質と効率のみならず、個々の裁量権という三つのバランスによって高いレベルを維持してきたとも言えます。
つまり、現代のように時短とかタイパというような少数で効率的に・・・という状況の中では、無理な形で一人一人に負担が増えていってしまうのです。
これらのように、長い間の思い込みや習慣、さらには社会的な慣習に至るまでの様々な要因によって「名もなき・・・」が、あちらこちらで発生してるのにも関わらず、個人のレベルではすぐさま改善につながらないような構造的な問題が関係してることも、この課題の特徴と言えます。
とはいえ、このような「名もなき・・・」にも「もう勘弁してほしい・・・」と言いたくなるような疲弊につながるケースもあれば、それほど負担に感じないケースもあるのが現実ですが、その違いは、どこにあるのでしょうか?
自分のやったことに対して「報われ感」という報酬があるかどうかだと言われています。
金銭的なものもありますが、それだけではなく「自分のやったことには価値がある・・・」、「役に立っている・・・」と感じられる心理的な報酬は大切だとされています。
そのなかでも、「自分のやっていることを、周りが認識していてくれるという安心感」という報酬は特に大きいと言われています。
そのような、「名もなき行為」は無駄にならず役に立っている・・・という心理的な報酬によってバランスがとることが出来れば、疲弊感という坂道を下っていることが避けられるのです。
しかし、その心理的な報酬を感じられない場面が度重なることで、「怒り」という感情に変化してしまい自身のエネルギーをも急激に消耗してしまうのです。
怒りは、自分自身を最も消耗させる感情であると同時に、自覚しにくい感情であると言われています。
「なんで、あの人はこんな状態なのに関心がないの・・・」「私ひとりが犠牲になっているのに、なんで平気なの・・・」というようなネガティブな 思考になりがちになることで、怒りの感情につなげてしまい思考の悪循環に陥ってしまうケースも珍しくありません。
「名もなき・・・行為」は、多くの関係性を壊す可能性がありますが、その一方で、絶対に無くなることの無い「行為」でもあります。
だからこそ、その「行為」の一つひとつに対して、お互いに敬意をもって具体的に伝えることで心理的な報酬を分かち合うという意識が欠かせないのかもしれません。
2024年10月03日
腸内細菌とお腹の調子との関係を考える

潰瘍性大腸炎やクローン病という病名を耳にしたことはありますでしょうか?
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に糜爛と呼ばれる炎症や潰瘍ができる炎症性疾患で、血便、下痢、腹痛などを不定期に繰り返すことでQOLの低下が著しい国指定の難病です。
また、クローン病も炎症性腸疾患のひとつで、米国の内科医クローン医師が初めて報告したことで知られる病状で、潰瘍性大腸炎と比較して口から肛門までの消化管全域に炎症を起こして炎症が深部に及ぶ傾向があると言われており、これも国指定の難病になります。
この二つの症例については、1970年代には年間に1,2例というような珍しい病気とされていましたが、現在ではその患者数が年間23万にも上るとされています。
これらの症状は、「原因不明の腸炎」とも言われていましたが、近年の研究によってその主な原因が腸内細菌によるもの・・・と考えられるようになって来ています。
順天堂大学大学院腸内フローラ研究講座の大草敏史特任教授によれば、これらの症状の患者の腸粘膜の中に悪玉菌が侵入してしまうことで、腸の防御力が低下し症状につながっていく可能性を指摘しています。
そもそも、腸内細菌には、善玉菌と呼ばれる人体に良い働きをするものと、悪玉菌が存在し、その悪玉菌が腸から体内に出ていく事で様々なトラブルを引き起こすと考えられています。
そのために、腸管には粘液や免疫のほか、細胞と細胞の間が緊密に接着されている細胞構造などで防御するためのバリア機能があります。
そして、このバリアをすりぬけて腸内細菌が漏れだしてしまうことをリーキーガット(腸管壁浸漏)と呼んでいます。
大草敏史特任教授は、このリーキーガットの原因について、日本人の食生活の変化である、と指摘しています。
その大きな要因の一つが、高脂肪食とプレバイオティクスである食物繊維の不足です。そして、食生活における脂肪摂取・食物繊維摂取の変化と潰瘍性大腸炎の患者数にも相関関係がみられると述べています。
以前から、高脂肪食と言われる脂肪分の多い食生活によって、腸管から腸内細菌の透過性が高まることで漏れやすくなり、「リーキーガット」をもたらすことがわかっています。
そのほかにも、アイスクリームやパンによく使われる増粘剤や乳化剤、人工甘味料なども「リーキーガット」の原因になりますので、これらを食べ過ぎないためにも高脂肪の加工食品には注意が必要です。
また、清涼飲料水に入っている「果糖」も飲みすぎると、悪さをして腸内細菌が漏れる透過性を高めると言われていますし、アルコールにも腸のバリア機能を低下させる作用があります。
アルコールによるリーキーガットが起きると、エンドトキシンという大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌などのグラム陰性菌の死骸から発生する毒素が、血中に漏れだします。このエンドトキシンが血流にのって肝臓に達し、そこで炎症、つまり肝炎を引き起こすのです。
その一方で、乳酸菌やビフィズス菌は「善玉菌」として多くの方に知られていますが、これらのプロバイオティクスと呼ばれる腸内細菌は腸管のバリア機能を強化することが報告されています
更に、癌の発症についても消化器官に存在する様々な微生物との関係が多くの研究によって明らかになりつつあるようです。
既に、多くの皆さんがご存じなのが胃に定着しているとされるヘリコバクターピロリ菌と胃がんとの関係ですが、大腸がんの組織からフソバクテリウム属の細菌が多く検出されていることから、フソバクテリウム属の微生物によってポリープが癌化するメカニズムとの関わりが指摘されています。
更に、食道がんの組織からも歯周病菌がたくさん検出されていることから、口腔の歯周病菌が食道に移り、発がんの促進に関わっている可能性も指摘されていますし、すい臓がんの組織からも特定の腸内細菌が検出されていることに加え、すい臓がん患者の口腔内での歯周病菌が多いことなどからも、歯周病菌とその腸内細菌が膵臓での炎症を起こすことで癌化に関わってる可能性についても議論されているようです。
これらの事例についても、これからの研究成果によって解明されるところが多いと思いますが、身体に起こる多くの不調が、お腹の状態に大きく関わっているとともに、リーキーガットを起こして腸管から漏れ出してしまった腸内細菌をはじめとするあらゆる微生物が関わることで、発症のリスクの上昇につながっていると考えれば、これまで「原因不明」とされてきた難病も、原因となる微生物を特定することで予防や治療につながる可能性も高まってくることが期待されます。
良い菌と上手に付き合いながら「お腹の調子を整える・・・」ことで、健康につながるという健腸長寿の考え方そのものですね。
2024年09月27日
何故、出勤時にお腹が痛くなることが多いのか・・・を考える

脳腸相関という言葉もあちらこちらで聞かれるようになり、日常のストレスなどを感じた時の腹痛や胃のあたりの痛み・・・に対して、「そういうことなのか・・・」と感じた方も多いのではないでしょうか。
その仕組みには様々あると言われていますが、その一つであるホルモンの働きについて考えてみたいと思います。
私たちは、ストレスを感じると、喉の渇きを感じたり、手に汗をかいたり、手足の震えや酷いストレスの場合は心拍数の変化にまであらわれることがあります。この反応もホルモンによって調節されているといわれています。
また、「満員電車に揺られて職場に行くことを考えるとお腹が痛くなる・・・」とか「通勤ラッシュによる渋滞に巻き込まれた時に限って、お腹が痛くなる・・・」という経験をしたことは無いでしょうか。
このような状態は、視床下部から分泌されるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)によって生じる現象だと言われています。
このCRHは、末梢組織でも産生・分泌され、特に大腸では痛みに対する感受性を高め下痢を誘発したり、胃の機能を抑制することで消化不良の症状が引き起こされ胃が痛んだりすることが示唆されているホルモンで、ストレスによって多く分泌されることが解っています。
このホルモンに対しては2種類の受容体があり、その受容体を結合することで働き始めると考えられています。
例えば、Ⅰ型と呼ばれる受容体は、結腸や大腸の蠕動運動を支配する副交感神経に対して働きかけることで、副交感神経が活性化され大腸の蠕動運動を促進したり、内臓知覚過敏を引き起こします。
また、Ⅱ型の受容体では、胃や十二指腸の運動を支配している迷走神経に働きかけ、胃や十二指腸の働きを抑制してしまうのです。
この二つの受容体の働きによって、お腹が痛くなったり、緩くなってトイレに駆け込みたくなることや、大事なプレゼンテーションや試験の直前になると、胃に石が入っているかのように重く感じ、胃が痛むというような状況になってしまうのです。
このような症状は、どちらか一つの受容体が作用するということではなく、人によっては両方の受容体が働いでしまい双方の症状が出てしまうケースもあると言われています。
更に、このホルモンは体内時計の影響を受けており、分泌量については朝に高く、夜になるにつれ低くなるという変動をしています。さらにその分泌量の多い朝にストレスがかかることによって、CRHの分泌量は更に増加してしまうという悪循環に陥ってしまいます。
つまり、朝にストレスを感じることで腹痛や下痢といった症状が起こりやすくなるのです。
そして、「通勤や通学の途中で突然腹痛が起き、途中で下車してトイレに駆け込んだ・・・」というような経験が積み重なったりすることで、「また、今日も突然腹痛が起きるのではないか」と不安を強く感じることで更にストレスが増加するということにもつながってしまう可能性があることを知る必要があります。
朝の快便は、大切なことです。その快便に朝に分泌量が多くなるCRHが大きな役割をしているという事実はあるものの、そこに不安やストレスをかけてしまうことによって、状況が変化してしまうというメカニズムを理解することで、「朝の腹痛や胃の痛み・・・」から解放される糸口が見えてくるかもしれません。
2024年09月20日
グリーンインフラの実践と地域コミュニティ

グリーンインフラという考え方は、前回ご説明させていただきましたが、実際にどうすれば良いの・・・という問題が出てくるかと思います。
「水」に関する防災や生物多様性に関することは、行政機関のすることで個人や小規模な企業が介入できるような問題でないと思う方もいるでしょうし、「これは、行政の仕事なんだから・・・なんで自分たちがやらなければいけないのか・・・?」と疑問を持つ方も多いのかもしれません。
しかしながら、多くの災害においてボランティアと呼ばれる自らの意志をもって復旧・復興に関わる人たちの存在は欠かせないものであり、被災地にとっては大きな心の支えになっているという現実もあります。
そうした考え方にしていく事によって、身近にも出来ることが沢山あることに気付くこともあるのではないでしょうか。
例えば、アスファルトやコンクリートで覆いつくされた雨水の流れる枡を覗き込んだことはありますでしょうか・・・、雨水桝は言ってみれば台所の排水溝と同じなので、排水溝にゴミや泥があれば、当然のように流れにくくなり道路に溢れ出す確率は高くなります。
天気予報を見ながら、雨水桝のゴミや落ち葉などを気にしてみたり、定期的に枡に溜まった土砂を取り除くことで水の流れは随分スムーズになります。
私の知人に、大雨の予報の時は必ず駐車場の乗り上げに使用している段差プレートを外して雨水桝に水が流れやすいようにしている方がいますが、それも減災という意味では大切なことの一つです。
このように、ちょっとした工夫で雨水の流れをスムーズにすることは誰にでも出来ることの一つです。
更に、既存のコンクリートをはがすことはなかなか難しいかもしれませんが、出来る限り表土を残すことも出来る工夫の一つですし、少し高価にはなりますが敷地内の舗装を透水性のものにすることも同じです。
そして、もっとも有効な手段と考えられているのが、大小にかかわらず「庭」と呼ばれるような環境を屋外に作っていく事です。
もちろん、草取りなどの日常的な手間はかかりますが、地表全体で考えれば地中の保水能力の一助となる事は間違いありませんし、そのような面積が増えていく事でヒートアイランド効果の減少にも大きな効果をもたらしてくれます。
また、愛知県では開発という名のもとに自然環境が失われるようなケースに対して、その損失を最小限もしくは、損失をしないようにしようという代償ミティゲーションという取り組みをしています。
いずれにしても、身の回りの利便性を一切損なうことなく身の安全を確保することは難しい・・・という発想が必要なのかもしれません。
地域コミュニティの持続可能性についても様々な議論がありますが、自然災害という視点で考えていけば、近隣の人々の協力は無くてはならないものであることは多くの方がお気づきの事でしょう。
流域全体という広域的な治水という視点で考えていけば、本来、湿地帯や田んぼを中心とした農地が大半を占め、多くの保水量を担っていた下流部が、都市化してきていることで、中流部や、さらには上流部に至るまで負荷が掛かってきているという状況も考える必要があります。
そのような状況からすれば、水に関連する大規模災害は都市部だけ・・・ということでは無くなってきているのかもしれません。
予防医学という言葉がありますが、予測される身の危険に対する予め準備するということで考えれば、社会的には「交通安全も立派な予防医学である・・・」ということにもなります。
ましてや、「水」から自身の身を守るということからすれば、「自分だけに降りかかる問題・・・」ということは無く、「一人一人の立ち振る舞いの結果が、その地域全体に降りかかる・・・」ということになります。
だからこそ、自治会や地域のNPO活動などの地域コミュニティの根幹である近隣の人たちとの関係性を今一度見直したうえで、グリーンインフラにつながるような身近に出来ることを学んだり、実践してみることも、自分自身の「予防医学」につながるのかもしれません。
2024年09月11日
グリーンインフラという流域治水の考え方

異常気象という言葉が、日常的に聞かれるようになりつつある昨今、異常という言葉を使用することそのものが問われるような、気象現象による風雨災害や、それに伴う土砂災害がここ数年非常に多くなってきています。
このような状況を解決するためにも、自分たちでも出来ることは少しずつ進めていく事がますます必要になって来ています。
豪雨による道路の冠水や内水氾濫と言われる下水などへの過剰な流入によって起こる様々な被害もその一つです。
これは、車に例えれば一般道と高速道路の違いのような事が、生活圏内での水の流れで起きていると考えることが出来ます。
例えば、高速道路の降り口での渋滞は、排水溝の数や溜枡の詰まりになります。更にその後の一般道まで渋滞していれば高速道路の降り口の付近まで渋滞が広がり、高速道路そのものまで渋滞してしまうようなものです。
ここで、ポイントなのは地表に降り注いだ雨水などの水は、都心部を中心にアスファルトの舗装路やコンクリートで覆われた地表を、高速道路を走るように排水溝にいち早く向かうしかなくなってきているということです。
よく、「現行の排水設備の許容量を超えている・・・」という話を耳にしますが、このような現状のなか排水効率を上げるには、下水管をはじめとする様々な排水設備の口径を広げるということになります。
しかしながら、このような災害インフラ投資が現実的かといえば、膨大な予算が必要なことも含めて現実的だとは思えません。
ここで、着目しなければいけないのが、「降水量が増えたのか・・・」、「地表の高速道路化によって排水設備への流入量が増えた結果なのか・・・」ということです。
そこで、近年あらためて注目されつつあるのが、水の流れの高速道路化を防ぐためのグリーンインフラという考え方です。
このグリーンインフラという概念は、米国で発案された社会資本整備手法で、自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用するという考え方を基本としており、近年欧米を中心に取組が進められているとされています。
日本国内では、平成27年度に閣議決定された国土形成計画、第4次社会資本整備重点計画で「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」といった課題への対応の一つとして、グリーンインフラの取組を推進することが盛り込まれています。
しかしながら、様々な学説や考え方による賛否が分かれる中、「我が国が直面する様々な課題を解決する上で示唆に富むもの・・・」というような方針に留まり、社会資本整備や国土利用等、国土交通行政分野における取組の方向性を示したものにはならず、都市部を中心に水の逃げ場のないコンクリートだらけの都市インフラ整備の方向性が続いているのが現状です。
近年の自然災害の多くは、「水」によってもたらされています。豪雨による洪水や土砂災害にしても結果的には水がどのように立ち振る舞うか・・・であって、コンクリートなどによる構造物で完全にコントロール可能なものであるはずがありません。
しかしながら、「コントロールできると思い込みたくなる・・・」のです。
その大きな理由の一つは、目先の利便性です。
モータリゼーションが進めば進むほど、舗装路の利便性が実感できます。「ホコリは立たないし、音もうるさく無い・・・、草も生えないから草取りしなくていい・・・、何よりも、車の動きもスムースだし汚れない。」未舗装であれば、全て真逆ですが、水の逃げ場は排水溝しかありません。
逆の視点で見れば、未舗装の場合は、「草も生えるけど昆虫も含めたいろんな生物が身近にいる・・・、マイクロプラスチックの原因の多くを占めると言われるすり減ったタイヤの海洋流出の減少・・・、地球温暖化までとはいかないが、ヒートアイランドの緩和にもつながる・・・」など、人間生活の利便性に対して生態系の持続可能性に寄与する部分が多いことも事実です。
これが、天秤の両端にぶら下がっているものだとすれば、もう少し足元の自然を大切にして一人でも多くの人が「ひと手間かける・・・」ことを惜しまない社会にしていくことで、水に関する災害についても少しずつ変化させていく可能性が残っていると考えることはできないでしょうか。
少し前に、大手企業が除草剤を使って街路樹を除去しようとしたことが話題になりましたが、その行為について多くの人たちが、利己的かつ身勝手な行動であると思ったでしょう。
さらに除草剤をつかうことで、「その周りの土もダメにしてしまう・・・」と感じた方もいたでしょう。
しかし、現実には表土が出ていれば雑草が繁茂します。その雑草の除去も大変な作業になりますし、場合によってはそれなりの経費も掛かります。
そのひと手間を誰かが担わない限り・・・、そのひと手間を掛ける意味を感じない限り・・・、「自然が有する多様な機能」を享受するグリーンインフラという考え方によって、持続可能性に近づくことは難しいのです。
地形によって降った雨や溶けた雪が水系に集まる範囲、または集水域とも呼ばれる地域を示す「流域」という概念がありますが、河川や池に対してだけに注意が行きやすいですが、ありとあらゆる水が、地形の高低差を利用して海に向かおうとします。
つまり、非常に広い範囲での保水力は地球というエコシステムにおいて重要な役割を果たしているのは、治水という視点においても同じことです。
山林の保水機能があってこそ、河川が存在するのと同じことです。
一時的な治水対策として、貯水タンクを利用することもありますが、そこには下水などから流入する細菌やウィルスに汚染された汚水を貯留することにもなりますので、衛生面でのリスクは否めないという現実もありますし、流入量の予測に誤りがあれば税金の無駄遣いにもつながってしまいます。
グリーンインフラという概念は、「自然環境を守る」という概念とはあえて一線を画し、「自然の機能を利用する」と考えることで、社会活動と環境保全の調和を目指す仕組みです。
それには、目の前の利便性を最優先するだけではなく、一人ひとりが「面倒な事・・・」に対しても少しずつ持ち出しをすることが普通になっていく事からなのかもしれません。
2024年09月05日
属人化と性弱説

人は、放っておくと、属人化すると言われています。例えば、「チームでのルールとしてはダメだけど、ここだけは良いんじゃない・・・」というやり取りを通じて独自のルールとして容認してしまったことはありませんか。
また、小さなレベルで「上には内緒でいいからさ」と、チームの方向性に相反することを促したりした経験はないでしょうか。そのようなやり取りを重ねることで、メンバーを味方に付けようとすることも、放っておくとやってしまう「属人化」の典型的な事例とされています。
これは、自身がルールメーカーであるような言動を繰り返すことで、自分自身があたかもチームの中心に居るかのような状態をつくり、自身の承認欲求が満たされるからだと考えられており、「属人化への行動は、本能的に出てしまう・・・」とさえ言われている非常にハードルの低い行動パターンとされています。
しかしながら、属人化したマネジメントがエスカレートしてしまえば、良心に耐えかねたメンバーによる「密告」によって、それが判明し、「責任をとって辞める」「会社の信頼を損なう」という顛末を迎えるというような事例が後を絶たないのも現実です。
このような事例は、上の人に対する同調のみならず、「うちは、こうだから・・・」とか「昔から、○○だから・・・」というような「古くからの慣習」と呼ばれる実体のないものに対しても起こってしまうのが現実です。
属人化を見過ごしてしまう原因の多くは、既存の慣習になびくことで自身の精神的なセーフティーゾーンを守ることからかと思います。
例えば、「良くない状況だと解ってはいても、古くからいる人の拘りのようなものが周りの場を制圧しているようなムードになっていて、本当は多くの人が解ってはいても誰も言い出せない・・・」というような事は、どこにでもありますし、最近では名だたる組織においてもそのような状況を報道で見聞きすることが増えたような気さえします。
ここでポイントとなるのが、「多くの人は気付いているのに・・・、誰も言い出せない。」という状況が多くの場面で現実に存在するということです。
また、倫理観を曲げて同調することは最も良くないことなのですが、自身の倫理観を守るために周りとは一線を画した立ち振る舞いをしてしまったりすることで、「その人だけの領域」を知らず知らずのうちにつくりあげてしまうことです。
その結果もたらされることが、属人化を促してしまうような「その人なりの独特のやり方・・・」なのではないでしょうか。
自分なりに工夫することそのものは、非常に良いことなのですが、その工夫そのものが、「チームの目的達成のため」ではなく、「自分なりの正義を貫くため」になりがちになってしまいますので、その工夫にひずみが出てきている可能性も否定できません。
さらに、別のケースでは、相手の真意を確認することなく、過去の経験から失敗のイメージを膨らませることで、「この場は、なびいて同調することの方が上手くいく・・・」と相手主導の選択に対して正当化しがちになってしまうことも多くなります。
また、「気付いていても言えない・・・」ことも多く、そのチーム内で多くの人が望んでる方向とは結果的にかけ離れた状態になってしまっていることも少なくありませんし、ひずみが出ている状態に慣れてしまうことで、意識としては「ふつう・・・」になってしまうのです。
これらの状況を考えていきますと、性善説や性悪説というような善悪で考えてしまいがちなのですが、人はそもそも弱いもので周りの状況に流されやすく、且つその方が上手くいくと考えがち・・・であるという、性弱説という考え方も出始めているようです。
そうはいっても、そのひずみを「ふつう」として受け入れ続けることは、精神的にもダメージになるため、そのダメージに耐えられなくなった人は、そのチームから去って行ったり、反発を繰り返すという選択をすることで、自分を守ることになります。
そのようなチームは、そのままにしておけばバラバラになってしまいますので、実際には何とか手を打つ必要があります。そこで、キーワードになるのが標準化です。
標準化とは規格化と修正化の繰り返しのプロセスとされており、
その時点で最良と思われる規格をつくる。
それを全員に理解してもらうための教育などの機会をつくり実践を積み重ねる。
それを全員に実行してもらうことで理解を深める
という規格化と
それによるマイナス効果を発見するたびに、定期的に、良い規格に修正していくという修正化の繰り返しとされています。
属人化してしまったことで硬直化したチームも、このような標準化のプロセスを用いて成果の出やすいことから成功体験を積み重ねていく事で、チームの雰囲気も変化していくものです。
つまり、現状の課題を切り分けた上でスモールステップでの目標を見据えながら、標準化の事例を一つずつ確実に積み重ねていくしかないのです。そして、その標準化を進めるうえでDXなどを活用していくのも有効な手段のひとつと言えます。
その取り組みに対しても、「取り組んでいる事」と「出来ている事」の違いは自分自身が思ってるよりも大きいという認識が必要です。そのためにも「出来るまで・・・」のロードマップを明確にイメージすることと理解者を増やしていくことが大切です。
「チーム全体の目的に近づくため・・・」に考えた場合と「自身がよく見られるためや自分を大きく見せるため・・・」に考えた場合とでは、自ずと行動が変化してきます。
その目的が周りの人に理解されることで、はじめて協力者とつながり実践に向けての一歩にもつながるのだと思います。
人は弱いからこそ「頼るチカラ」が必要であり、そのチカラを使うことで属人化から抜け出す一歩につながるのかもしれません。
2024年08月29日
睡眠力という考え方

「もっと寝ていたいのに、目が早く覚めてしまう・・・」「眠りが浅く、何度も目が覚めてしまう・・・」というような経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。よく、「歳をとると目が覚めるのが早い・・・」というような話を耳にすることもありますが、このような傾向は加齢によって高まり、50代になると顕著になるということです。
雨晴クリニック院長の坪田聡氏によれば、加齢によって脳の老化が進み、眠るための能力が低下してくると述べており、睡眠力という表現をしています。
この睡眠力は、加齢によって低下します。50代になると急激に睡眠力が衰え、60代以上になると浅い眠りしかできない人も増えてくるとしています。
そもそも、眠りには大きく2つの役割があるとされています。
まずは、日中の活動で疲れた脳と身体を修復・再生することです。いってみれば、身体全体の定期メンテナンスになります。ヒトの場合、毎日のメンテナンスが必要な仕組みになっていますので、このメンテナンスを怠ったり、上手くいかなかったりすれば、疲労の回復、免疫機能や認知機能など様々な不具合が出てしまうということなのです。
そのメンテナンスにおいて大きな役割をしているのが成長ホルモンだとされています。成長ホルモンというと、成長期の子どもに必要なホルモンと勘違いされがちですが、大人にとっても欠かせない重要なホルモンで、睡眠状態に入ってからの最初の深い眠りで最も大量に放出されることから、日々のメンテナンスをしっかりと行うには就寝後3~4時間の深い睡眠が重要ということになります。
ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールと睡眠ホルモンのメラトニンとのバランスも大切で、コルチゾールは血圧や血糖値の上昇、代謝のアップ、免疫抑制などに作用し、朝に多く分泌されますが、睡眠のリズムが崩れるとうまく分泌できなくなります。
また、メラトニンは、脳にある松果体が分泌しますが、老化でその機能が衰えてしまいます。睡眠サイクルを司る睡眠中枢も同様に働きが鈍るなど、さまざまな脳の老化現象が睡眠力を低下させてしまい、結果的に朝に起きられなかったりメンタル不調になったりすることがあるのです。
厚生労働省では、「睡眠指針2014」を改訂し、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を策定することで、世界でも有数の睡眠不足である日本の状況に対する警鐘、啓蒙をしています。
また、加齢による脳機能の低下が引き起こす睡眠力の低下だけでなく、様々な不具合の症状の一つとしての不眠の可能性も加齢によって高まってくることも意識しておく必要があります。
その代表的な事例が、睡眠時無呼吸症候群です。この症状は、加齢による機能低下のみならず、肥満による上気道の閉塞など様々の要因によって現れてきます。
大きないびきをよくかく、日中眠気や倦怠感に襲われることが多い、夜間トイレに起きることが多い、早朝、頭痛が起こり易い、というような症状や、高血圧で降圧剤を服用しているのに血圧が下がりにくいなどがある場合については、睡眠時無呼吸症候群の疑いも考え別のアプローチが必要であるという認識も必要です。
また、女性ホルモンは上気道を広げる働きがありますが、閉経後は上気道を広げる働きが弱まり、睡眠時の無呼吸を起こしやすくなるとも言われています。
更には、無呼吸の低酸素状態が脳にダメージを与えてしまうことで、認知症の発症につながる可能性を示唆するような研究結果がある事や、睡眠中も呼吸停止のために血圧が下がりにくいということもありますので、「眠れていない・・・」状況を放置することは、健康の維持増進に対して大きなリスクになるという認識は大切です。
そのような中、睡眠の状況の改善に一番大切なことは、生活習慣や安定した就寝時間と起床時間などの睡眠習慣の改善が必須と言われています。そのためにも、自身の生活と癖を知ることからとされていることからしても、睡眠の改善には特効薬があるわけではなく、「朝食をしっかり摂る食習慣」をはじめとする、日常生活の見直しは不可欠なものになるのだと思います。
アメリカのレスター・ブレスロー博士の「健康と寿命に関する研究」では、次の7つの健康習慣が健康的に長生きするのに必要としています。
・適正な睡眠をとる
・毎日朝食を食べる
・間食をしない
・週に数回、適度な運動をする
・適正な体重を保つ
・お酒を飲み過ぎない
・煙草を吸わない
この7つの生活習慣は、「適正な睡眠をとること」と「良質な睡眠をとるための準備」と考えることも出来ます。
つまり、良質な睡眠をとることが、健康と長寿に最も重要だということからすれば、このようなの健康習慣を心掛け、歳をとっても睡眠力の低下を招きにくいような習慣を睡眠力が落ちる50代になる前から取り入れることで健康の維持増進につながります。
2024年08月23日
プロバイオティクスの新たな可能性について考える

イギリスの微生物学者であるフラーによって提唱された、ヒトに有益な作用をもたらす微生物であるプロバイオティクスは、いまや多くの皆様方にとってなじみの深い存在になりつつあり、多くの食品やペットフードに至るまで様々なところで関連する商品を目にするようになっているのが現状です。
プロバイオティクスといっても、その健康効果については対象となる微生物によって様々です。
その中でも、もっとも一般的と言われているのが「お腹の健康」と言われる、腸内腐敗の抑制、腸管の蠕動運動の促進、通称悪玉菌と言われるヒトに対する有益でない微生物の抑制などの腸内環境の改善です。
その一方で、昔から馴染みの深いプロバイオティクスでもヒトに対する新たな健康効果が研究によって明らかにされるというケースもあります。
その代表的な事例が、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株の健康効果です。
このプロバイオティクスについては、1930年の強化培養成功以来、生きたまま腸内に到達することで、良い菌を増やし悪い菌を減らして、腸内の環境を改善し、おなかの調子を整えるという効果があるということでしたが、研究が進むにつれて、ストレスの軽減、睡眠の質の向上というようなメンタルヘルスに関わるような領域についても健康効果が示されています。
この事例のように、新たなプロバイオティクスによって新たな健康効果が提供されるだけではなく、既に馴染みのあるプロバイオティクスに於いても新たなる研究成果として、従来とは異なる領域で健康効果が認められることがあるということです。
先ほど紹介させていただきました、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株については、さらなる研究領域として、NK 細胞活性の維持やIgAの維持などの免疫システムに影響を及ぼすことや、上気道感染症の症状の軽減に有効であることが、既に研究で明らかになっています。 しかしながら、臨床段階において、当該プロバイオティクスの摂取が、免疫実行細胞に指示するマネジメント細胞 (単球やマクロファージ、樹状細胞など) に及ぼす影響やその機序については未解明の部分があるという段階のようです。
そのような中、健常な日本人男性オフィスワーカーを対象とし、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株を1000億個以上含む乳酸菌飲料を使用した無作為化二重盲検比較試験を用いて、採取したヒト末梢血単核細胞 (PBMCs) に含まれる免疫マネジメント細胞に及ぼす影響を解析するという研究も行われています。
この研究において、宿主の自然免疫系と獲得免疫系に影響を与える可能性が示されており、宿主の全身の免疫機構に働きかけて、健常人の健康維持に寄与すると考えられており、今後、宿主の体調との関係性について検討を進めていくというような事例もあるようです。
このように、プロバイオティクスと言われる微生物に関わる分野においては、様々な研究が進むにつれて、私たちにとって欠かせない共生微生物としての役割が解明されるとともに一人でも多くの人たちの健康に寄与する可能性も更に大きくなりつつあるのです。