2024年08月16日
夏場の水分補給を考える

連日の猛暑が続く中、「熱中症対策」という言葉が毎日のようにあちらこちらから聞こえてきます。
その熱中症対策に一番の効果的な方法は、言うまでもなく水分補給です。
そもそも、汗は暑い熱いから出てくるということなのですが、暑さで体温に影響を及ぼさないように、体内の水分を利用し、その気化熱を利用して身体を冷やすための仕組です。
そのため、体内の水分を消費して枯渇しないように水分を補給する必要があるのです。
当然、口から入った水分がすぐさま吸収されて、汗となるわけではありませんので、「喉が渇いてからでは、遅い・・・」というような、水分補給のタイミングについても理解できるとおもいます。
そこで便利なものとして登場したのが、「吸収が良い・・・」飲料と言われる、スポーツドリンクです。とはいえ、清涼飲料をはじめ様々な飲料がコンビニエンスストアなどで手軽に入ることや、機能性表示食品や健康保険効果が認められるものも多くなってきましたので、水分補給だけでなく、・・・どうせなら、美味しい方が・・・とか、こんな効果が欲しいということで様々な理由で飲料を選択しているということが現実です。
そこで、問題になって来ているのが、「ペットボトル症候群」と言われる、水分補給時での糖分などの過剰摂取による身体の不調です。
この「ペットボトル症候群」は、砂糖が入ったペットボトル入りの飲料を多飲することで、糖尿病の自覚のない人にも関わらず、糖尿病の症状のひとつである、「喉の渇き」という症状に対する造語で、医学的には清涼飲料水ケトーシスと言われています。
WHO(世界保健機関)は、成人がとる1日の糖分摂取量を25g、角砂糖ではおよそ8個分と推奨しています。その摂取量を継続的に超えてしまうことで、身体に変調が起きてしまいます。
その典型的な事例が「喉の渇き」です。その状態で更に糖分の入った飲料を摂取してしまうことで、更に血糖値が上がってしまうという悪循環に陥ってしまいます。
こうなってくると、身体自身が水分を欲しているのか、血糖値上昇による喉の渇きによって水分が欲しいのかがよくわからない状況になります。
このような症状が、ひどくなってくると喉の渇きだけでなく、体重減少や倦怠感、さらには意識がもうろうとし、昏睡状態に陥ることもあるとされています。
とはいえ、最近では糖類のみではなく、様々な甘味料の入ったものがありますので、そちらに変更すれば良いかと言えばそうではありません。
人工甘味料は、血糖値の上昇を抑えたりすることが出来ますが、その一方で、食後の血糖値の上昇が起こりにくいために、脳の満足度が低下し、食欲増加に繋がったり、甘味に関する感覚が鈍ってくるというような指摘をはじめ、腸内細菌叢へのマイナスの影響も指摘されていますので、そのようなことも含めて理解する必要があります。
もちろん、スポーツドリンクや清涼飲料水がいけないということではありませんが、身体との関係を理解した上で、量とタイミングを考えて上手に付き合っていく必要がありますね。
2024年08月09日
自然との関わり方をあらためて考える

コロナ禍の生活スタイルの中で、ソーシャルディスタンスという言葉がよく聞かれたのは記憶に新しいかと思います。そのような中、キャンプや釣りなどのアウトドアに関する楽しみ方に注目が集まり、「この機会に始めた・・・」などという方も多いのではないでしょうか。
「不要不急の外出を控えましょう・・・」という状況の中、多くの人がそのような状況を続けるのではなく、工夫した結果が、自然環境に身を置く・・・という選択につながったのだと思います。
そして、それが、リチャード・ループ氏が提唱した、「自然欠乏症候群」という考え方にもつながるような、行動変容のひとつだったのかもしれません。
リチャード・ループ氏は、ヒトが社会生活の中で、自然と遠ざかることの身体的リスクという視点から警鐘を鳴らしてきました。
その多くは、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚と言われる五感の衰えによる怪我や事故に対する対応力に関するものだったかと思います。長い人類史の中で培ってきた、五感を通じての自然との関わりを考えれば確かにそうなのかもしれません。
その一方で、ヒトが社会的動物である以上、五感も含めて身体が順応していくチカラも大切ですが、同じ種であるヒト同士の関わりである社会性という視点で考えてみることも必要なのではないでしょうか。
確かに、人類は道具を使うことで大きな進化を続けてきましたし、文化や文明も培ってきました。
しかしながら、技術や学問の進歩とあいまって、自然という空間に自身が身を置いた状況を考えた場合においても「何もかもが、お膳立てされている状態・・・」になりつつあります。
この「お膳立て・・・」には、便利な道具もあれば、場所を選ぶことの無いよう進化した食べ物などもその一つなのかもしれません。
その「お膳立て・・・」があることで、自分が置かれた環境のなかで、「身の回りのあるものを利用して乗り切るチカラ」という、社会的に大切なチカラを育む機会からは、現代の日常生活の中ではどうしても遠ざかってしまいます。
例えば、「電卓があるのに何故、算数を勉強しなければならないの・・・?」や、「スマホの自動翻訳機能を使えば良いのに、なんで英語を勉強しなければならないの・・・?」という問いと同じのように、あることが前提として、思考を巡らしていることに次第に気付かなくなっていることは無いでしょうか。
子どもの遊びも同じです、場所や道具をはじめとする様々なものを、周りの大人がお膳だてしてしまえば、人工的な環境下で遊んでいるのと同じになってしまいます。
自然の中では上下左右あらゆるところから「何か」が起きるということが当たり前の世界です。たとえば、虫が飛んできたり、足元も建物の廊下のように平坦なわけではありません。ひょっとすると蛇が出てくるかも知れません。常に周りに注意を払っていないと怪我や事故につながることもあるというようなリスクへの対応力だけではなく、自分ではどうにもならないものに対峙するチカラを養うことにつながります。
しかし、人工の構造物に囲まれた環境ではそのような注意を払う必要はなくなるだけでなく、身の回りの多くのものに対して、コントロール可能なものというような感覚に陥りそうになり、その感覚が行き過ぎてしまえば歪んだ万能感にもつながってしまうかもしれません。
「自然」はあるがままの姿そのものであり、長いタイムスケールを経て、あらゆる問題に対する答えを私たち人間に突き付けてきます。
気候変動や地球温暖化と言われるグローバルスケールの問題、種の絶滅や地域における様々な災害もその一つであるとともに、そのチカラの大きさからすれば、私たちの存在は小さなものに過ぎません。
種の絶滅や生態系の問題への解決手法に関しても食物連鎖の上位種を移入することで解決した事例はほとんどなく、むしろ新たなるより大きな問題に繋がっている事の方が多いという現実もあります。
つまり、自然は私たちの思うがままへの「お膳立て・・・」はしてくれないのです。
確かに、失敗しないためのお膳立ては大切なものなのかもしれませんが、そのお膳立てによって、失敗を知らなかったり、失敗をなかったことにする癖がつくことの方が、将来への大きなリスクに繋がります。
だからこそ、あるがままに答えを出す自然に対して、抗うことなく寄り添っていくチカラを育む・・・という意識をもって自然と付き合うということを大切にしていく必要があるのかもしれません。
2024年08月02日
腸活はいつから始めるべきなのか

「腸活」という言葉も一般的になり、様々なメディアでも取り上げられない日がないくらいになりつつあります。
特に近年での研究成果もあり、かつては美容や瘦身などの一部の人の興味関心であったものが、免疫アップや自律神経を整えるなど、健やかな毎日を送るために欠かせないものという位置づけになってきつつあります。
順天堂大学医学部教授で、日本スポーツ協会公認ドクターの小林弘幸氏によれば、新型コロナウィルス感染症で特に重症化するケースに於いて、高齢者、糖尿病患者、肥満の人が多く、そこでの共通点として腸内環境が悪いというようなこともあり、「腸活」に対する注目が高まった可能性を指摘しています。
小林弘幸氏によれば、10年前ほどは「腸活」と言えば、50代になって自身の健康が気になり始めたくらいの世代の方の関心事、という傾向が高かったのですが、コロナ禍の影響で、多くの方が一度は体調不良になるという状況になってしまったこともあり、20~30代のようないままで健康に無頓着な生活をしていても健康を維持出来てきた世代の方にも関心が高まってきているようです。
しかしながら、現実のライフスタイルを考えてみれば、このような若年層からの腸活は、「そもそも、若いからこそ必要・・・」ともいえるのかもしれません。
腸活につながる食事の3原則があるそうなのですが、1つは朝食をしっかりとっていること。2つ目は、腹7分目くらいで抑えること。3つ目は、寝る3時間前に食事が終わっていること。この3つさえ守っていれば、何を食べてもいいとも言われています。
その一方で、厚生労働省の平成26年に行った「国民健康・栄養調査」によれば、20代の朝食欠食率は、男女ともにその割合は20歳代で最も高く、それぞれ男性30.6%、女性23.6%です。
さらに、一人世帯に限った朝食の欠食率は、男性の20歳代で65.5%、30歳代で41.4%、そして女性の20歳代で29.0%とされていますので、決して良い状態ではありませんし、他の世代からしても特徴的な数字となっています。
これらの理由として挙げられるのは、いわゆる夜型の生活にあるとされています。
ワーク中心のライフスタイルになってしまうことで、就業後、食事の時間が遅くなったり、その結果就寝時間が遅くなり、朝食を食べる時間が無 かったり、起床後に空腹感が出てこないような就寝時間直前の食事など、腸活にとっては良くないことばかりになっている方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、生活習慣病や大腸がん、さらにはメンタルヘルスに関する症状など、さまざまな病気につながる可能性がある事などはわかってはいても結果が見えにくく、変化がすぐにわからないので、なかなか腸活の重要性に気が付かないのが現状です。
つまり、若いゆえに身体等のダメージを実感しにくく腸内環境にとって良くない生活を続けてもあまり影響が実感できないことで、現状のライフスタイルをつづけてしまいダメージを積み重ねてしまうのです。
「お腹の健康」を中心に考えれば、睡眠不足を中心とした不規則な生活や、ファストフードが多かったり、アルコールの多飲など・・・良いことは一つもないのです。
若いうちはそれでも大丈夫かもしれませんが、そのツケが40代以降回ってくる可能性は否定できません。
アスリートの世界でも、昔は「朝まで飲んでそのまま試合に行く」という豪快な選手も多かったように記憶していますが、最近では、「食生活が乱れるとパフォーマンスに影響が出る・・・」という理由で、食生活から見直すことで全体のパフォーマンスを上げていくという考え方は普通になって来ています。
そうして考えれば、「腸活」は、中高年と言われる身体の不調を感じやすくなってから慌てて見直すよりも、仕事などでストレスがそれなりにかかるということや、腸内環境が乱れるライフスタイルに陥りやすい20代くらいから始めないと間に合わないとも言われています。
早いうちから腸内環境を意識してライフスタイルを変えていく事は、メンタル面も肉体的な面の両方の面からみても健康の維持増進につながるのだと思います。
2024年07月26日
信頼と多様性の関係を考える

Googleが行ったプロジェクトアリストテレスによって、チームの生産性を高めるために大切なことの一つとして「心理的安全性」という言葉が、クローズアップされるようになってきました。
つまり、心理的安全性が高いことで、色々な視点で意見をぶつけ合うと同時に、多様な意見を尊重出来るという考え方です。
しかしながら、「多様な意見の尊重・・・」に対する考え方が組織内に於いて定まっていないと、表向きは「なんでも意見してください・・・」と言いながら、お互いの顔色を伺ってみたり、「少数派の意見を中心にしなければ・・・」というような歪みが生じてしまいます。
特に、「多様性」という言葉についても、「相手の主張は全て受け入れなければ・・・」という理解をしてしまうことで、疲弊してしまったり、自分自身の意見を殺すことが習慣になってしまうような事例も少なくないと思います。
「意見を言い合える・・・」という、関係性に於いて最も大切なことは、お互いの関係において信頼がおけるということです。
例えば、反対の意見を言ったとしても、その「コト」に対する意見であって、言っている人に対する批判ではない・・・という安心感などです。
その一方で、ビジネスの世界では、「信頼の話は道徳的なことが中心で実益につながらない」と思われている方が割と多くいるとされています。しかしながら、売り上げや利益の向上など、明確に実益につながるというようなエビデンスも少しずつ出てきつつあるようです。
フランクリン・コヴィー・ジャパンの竹村富士徳取締役副社長は、「信頼」はビジネスにおける隠れた変数で、結果(成果)は、「戦略×実行=結果」ではなく、「戦略×実行×信頼=結果」という式で導き出されると述べています。
この式が、有効であるということであれば、結果はそれぞれのファクターの乗算ということになりますので、戦略や実行はマイナスにはなり難いですが、信頼関係がゼロやマイナスになってしまえば、結果は自ずとマイナスになってしまうということになりますので、もっとも大切な要素ということになり、組織の中にどれだけ信頼の文化ができているかで、結果は大きく変わってしまいます。
しかしながら、心理的安全性につながる信頼はどのようにすれば得られるのでしょうか・・・?
組織である以上、その組織の目的や目標があるはずです。その目的や目標に向かう・・・という共通の課題に対して、「貢献している・・・」ということが、前提になると思います。
すなわち、結果に対する責任です。
当然のことながら、チームワークを大切にしていくための様々な言動や立ち振る舞いは重要なのですが、周囲から見た時に「結果に対する責任」を感じ取れないということであれば、「細かいことが気になる小うるさい存在」になってしまう可能性も否定できません。
「達成感・・・」という言葉がありますが、一緒に成し得ることで、相手に対する関心が高まったり、敬意を持てたりという経験は多くの方にあるのだと思います。
このようなことからすれば、貢献につながるパーソナルスキルとチームワークにつながるエンゲージメントスキルは、両輪であることは間違いないのですが、「貢献につながるパーソナルスキル」を磨き、結果につなげてくれる・・・という信頼があってこそ、自然に敬意ある接し方に変化していくというように考えることも必要なのかもしれません。
また、リーダーという立場になれば、その責任は更に大きくなってきます。
例えば、リーダーが、「信頼が大切・・・」といくら口にしても、その人自身が周りの信頼を得られていなければ、「どの口が言うのか」と思われてしまい、先ほどの公式を用いて考えれば、結果はマイナスになってしまいます。
「人を信頼する」という姿勢・行動を周りに見せているかどうかは、非常に大切なことになってきます。
それは、リーダーの人との接し方が、組織全体に伝搬していくからです。
そして、リーダー自身が「人を信頼する人」であるためにリーダー自らが皆に模範を示すことしかないのです。
このような信頼が、多様な価値を受け入れる風土につながるということであれば、まずは、「貢献につながるパーソナルスキル」磨き、実践を積み重ねることで、一つ一つ結果を積み重ねていく事が一番なのかもしれません。
2024年07月19日
プロバイオティクスと皮膚との関係を考える

かねてから、皮膚に対する症状と胃腸などの消化器系の症状との関連は、多くの関心を集めており、様々な研究もおこなわれています。
このような関係性は、ストレスによって便秘や下痢などの消化器系の症状になるケースがある場合や、湿疹や脱毛などの皮膚の症状が優位に出る場合があることからもうかがえると思います。
実際に、脳腸相関という言葉だけではなく、脳腸皮膚相関という言葉もあり、この三つの関係性に対しての大きなポイントになっていると考えられているのが、腸内細菌や皮膚常在菌などのヒトとの共生微生物群です。
そもそも、皮膚と消化管は、管の表面と内側のような構造で考えてみると解り易いのですが、外界と身体が直に接する故に、多様なバリア機能を必要としています。そのバリア機能として大きな働きをしているのが、皮膚や消化管内に存在する共生微生物ということになります。
近年の研究では、これらの共生微生物は宿主と言われるそれぞれの身体の恒常性や免疫機能を支える大きな役割をしている一方で、これらの微生物叢の状態によっては、マイナスの影響もあるということになります。
実際に、腸内細菌叢の乱れを起因とする皮膚疾患や他の炎症性疾患や自己免疫疾患の素因となる可能性についての指摘もあります。
そのような中、アトピー性皮膚炎は、最も一般的な慢性炎症性皮膚疾患として知られており、子どもの約2割に症状が見られ、成人に於いても約1割の方に症状が見られるとされている世界的にも増加傾向にある疾患のひとつです。
その要因については、衛生状態や母乳育児、居住条件、抗生物質の摂取、食事など様々であると言われている一方で、特にアトピー性疾患に対する遺伝的素因を持つ人々において、微生物叢への影響が、宿主の免疫系に影響を与える可能性があることも示唆されています。
そのような中、特定のプロバイオティクスが腸内細菌叢を調節することによって、アトピー性皮膚炎の症状を改善する可能性も出てきつつあります。
マウスによるLactobacillus paracasei KBL382株の経口投与によって症状を効果的に減少させた事例や、KBL382の投与により、アッカーマンシアの存在量が有意に増加したことなど研究事例も構築されつつあります。
このようなプロバイオティクスを用いた実験的研究では、サイトカイン産生を調節し、制御性T細胞集団を増加させ、腸内細菌叢を再形成する能力が示されており、アトピー性皮膚炎の症状緩和に有望であることが示されてますが、臨床試験における特定のプロバイオティクスの有効性については不確実性が残っており、プロバイオティクスの一貫した有効性と最適な使用を確立するためのさらなる研究の必要性が強調されているのが現状です。
しかしながら、このような知見の裏付けには脳腸皮膚相関という人間の基本的なバリア機能が、大きく関わっていることを意識しておくと良いかもしれません。
2024年07月12日
何故、現代人の便が減っているのか

順天堂大学医学部小林弘幸教授によれば、近年、「食べる量は増えているのに便の量が減っている・・・」と述べています。
現在の、一日に日本人がする便の量は約200gと言われていますが、実際はもっと少なくて、一日80〜100gではないかと考えられているそうです。
その一方で、第2次世界大戦が終わったばかりの調査では、日本人の一日の便の量は約300gと言われていますので、現在と比較して、3倍以上もの開きがあることになります。
皆様もご存知のように、昭和20年当初と比較しても日本人の食事の量が減っているわけではありません。当時は食糧難ということもあり、当然のことながら現在の方が食べる総量は増加しているのにも関わらず、便の量は減少しているというのです。
ここで、確認しておきたいのが「便」は何で出来ているのか・・・?ということです。
多くの方にとって、「便」=「食べ物のカス」であるというイメージが強いかと思いますが、実はそうではありません。健康な人の便の80%が水分で、残る20%のうち3分の1が食べカス、3分の1が生きた腸内細菌、3分の1がはがれた腸粘膜などの腸管内の古い組織とされています。
そこで、大きなポイントになるのが食物繊維です。以前は、「食物繊維は便を増やす効果がある・・・」と言われていましたが、実は食物繊維そのものが食べ物のカスとして、便の量が増えるのではなく、腸内細菌叢の中の善玉菌と言われる微生物のエサとして消費されてしまいます。
その結果、乳酸や酢酸、さらには短鎖脂肪酸と言われるような様々な代謝物が腸内に優性になるために、有害物質を出すとされる悪玉菌が抑えられると同時に、腸内環境が酸性に傾きます。
便の色は、胆汁酸が腸内のPH値によって変化すると言われており、PH値が低いほど黄色が強くなり、PH値が高いほど黒っぽい色になります。便が黄色っぽい状態に近くなることで、腸内環境も良いということになり、腸の蠕動運動が活発になり腸管内の古い組織が便となって出やすくなるのです。
このような便の仕組から考えれば、食べ物のカスはさておき、腸内細菌のエサが確保できることで、腸内細菌の数や多様性が増し、その結果、腸内環境が整うことで腸管内の古い組織との入れ替わりが促進されるというメカニズムからすれば、食物繊維によって便の量が増加するということも理解できるかと思います。
そもそも、食物繊維とは「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分」を総称しています。その内容は様々になりますが、多くの腸内細菌が生息している大腸付近まで、未消化のままエサとして届かなければ、当然のことながら腸内細菌は栄養不足となり、腸内環境は良い状態にはなりません。
近年よく耳にします、低炭水化物ダイエットの影響で便秘になってしまうという方がいるという話も、「ご飯を抜く・・・」などの穀類=糖類とみなし過ぎてしまうことで、食物繊維が不足してしまう典型的な事例ともいえるのかもしれません。
更に、現代の食生活を考えると、食品の加工技術も飛躍的に向上し、「美味しいもの・・・」が増えました。これも、糖類も含めた精製度合いが向上することで味覚に対する細かいコントロールが可能になったと同時に、食物繊維を含め余分なものが取り除かれてきました。
その結果、食物繊維の摂取量が激減している可能性も指摘されています。
現在、推奨されている食物繊維の一日平均の摂取量は男性で21g以上、女性で18g以上とされていますが、実際は、10gくらいしか摂取できていないとされています。
戦前には平均30gの食物繊維を摂取していたと言われていますので、現代人の便の量が3分の1に減ってしまったのは、食物繊維の不足との大きな相関関係があることが伺えます。
かつては、身体には必要のない成分だと思われ、誰からも見向きされない不遇の時代を過ごした食物繊維ですが、2000年頃から腸内細菌の研究が進むにつれて、食物繊維やオリゴ糖などの難消化性の成分が腸内細菌のエサになることがわかってきたことで関心が高まり、プロバイオティクスに対して、プレバイオティクスという言葉も生まれてきました。
しかしながら、現実の摂取量からすれば、食物繊維は食生活の変化によって意識的に摂らないとなかなか摂取することが出来ない成分のひとつなのかもしれません。
そのような中、食物繊維の摂取の量が、便の量、色、臭い・・・に現れることを意識してみると良いかもしれませんね。
2024年07月04日
「酒は百薬の長」を考える

アルコールの適度な摂取は血行を促進し、胃腸の動きを活発にしたり、消化酵素の分泌を促す働きを得られることで食欲増進効果がある故に食前酒という習慣があったり、免疫力向上にも良い効果があると言われてきました。
また、「酒は百薬の長」というような言葉も古くから使われており、アルコールと社会生活との密接さも伺えます。
そもそも、この言葉は中国古代の史書「漢書」から出た言葉と言われていますが、「適度な酒はどんな薬にも勝る効果がある」という意味とされています。この後「過ぎたるは百薬の長ならず」と続いており、お酒の功罪の「罪」の部分も表現しているとされているそうです。さらに、吉田兼好が、徒然草の中で「百薬の長とはいへど、よろずの病は酒よりこそ起れり」とアルコールに対する危険への指摘もあります。
このように、過度な飲酒に対する危険性についての指摘は古くからありますが、国内でも従来は、「節度のある適度な飲酒」として目安が示されるだけだったのですが、「疾病のリスクを高める飲酒量」も含めたガイドラインが作成されました。
さらに、今回のガイドライン作成の背景としては、2021年の調査で、コロナ禍でのテレワークによって、飲酒量が増えたという人の割合が40.3%と、減ったという人の15.2%と比較して非常に多かったこともあるとされています。
今回作成されたガイドラインは、「基礎疾患等がない 20 歳以上の成人を中心に、飲酒による身体等への影響について、年齢・性別・体質等による違いや、飲酒による疾病・行動に関するリスクなどを分かりやすく伝え、その上で、考慮すべき飲酒量(純アルコール量)や配慮のある飲酒の仕方、飲酒の際に留意していただきたい事項(避けるべき飲酒等)を示すことにより、飲酒や飲酒後の行動の判断等に資することを目指すものとします。」と記されており、アルコールに関連した問題の理解・関心を高めて予防に役立てることを期待し、実際の摂取量と疾病のリスクなども具体的に提示されているのが特徴です。
また、「お腹の健康」や、近年話題の「腸活」という視点からすれば、アルコールの飲み過ぎは腸内環境を悪化させる可能性があるとされています。
米国国立衛生研究所(NIH)の研究によれば、アルコールを摂り過ぎると、腸内で毒性の強い細菌が増え、腸内フローラが悪化してしまうおそれがあるとの報告をしています。このことからも、アルコール摂取が腸内フローラを変化させ、腸内フローラそのもののアルコールの産生や分解に影響を及ぼすことで、腸内フローラのバランスが崩れアルコールの分解への影響が出る可能性もあるというのです。
それだけではなく、大腸菌などの悪玉菌と呼ばれる有害菌の増加によって腸内で作られる毒素が増えたり、水分やナトリウムなどの電解質の腸から体への吸収が悪くなることで、水分と電解質の排出量の増加、更には、小腸の粘膜の働きが弱まり、十分な消化をできなくなったり、その影響も含めて、糖や脂肪の分解・吸収も低下し、下痢を起こしやすくなる可能性も否定できません。
これらのような、腸内環境への影響はすぐさま疾病につながるということにはならないのかもしれませんが、「お腹の健康」という視点からしても、多くの疾病へのリスクは高まっていると言わざるを得ないと思います。
かつて、「酒は百薬の長」と言われてきましたが、科学の進歩によって身体への様々な影響が解明されつつあるいま・・・この言葉を、「酒飲みの口実・・・」として使うのではなく生活に潤いを与えるためのより良い付き合い方にしていけると良いですね。
2024年06月28日
脳腸相関と発毛との関係を考える

脳腸相関という言葉が聞かれるようになり、プロバイオティクスによるストレスの軽減や睡眠の質に関するエビデンスも整いつつあり、機能性表示食品などの食品も身近な存在になりつつあります。
そのような中、プロバイオティクスと毛髪との関係についての関心も高まりつつあり、様々な分野で研究が進められているようです。
実際に、韓国では男性型および女性型脱毛症の患者46名を対象に、プロバイオティクス(キムチと納豆由来の菌株を含む)またはプラセボを12週間摂取するという実験の結果、有意な発毛効果と毛髪の密度と太さが改善したという報告があります。
また、台湾の研究グループが行った二重盲検プラセボ対照試験では、脱毛に悩む26名の被験者にプロバイオティクスサプリメントを12週間摂取してもらったところ、96.2%の参加者で毛髪の密度が改善し、抜け毛が減少したと同時に、頭皮のかゆみの緩和や、皮脂量の減少、頭皮の保湿力の向上などの効果が認められたととのことです。
近畿大学医学部皮膚科学教室 大塚篤司主任教授によれば、これらの知見について、研究の蓄積は不十分としながらも、腸内フローラを整える生活習慣を心がけることが、皮膚や毛髪の健康維持につながる可能性への期待と今後のメカニズムの解明について次のように述べています。
まず、はじめに腸内細菌叢が良好になることで、脳腸相関によって脳を介して毛包の機能や毛周期に影響を与えていることや、腸内環境が良くなることでIL-1、TNF-αなどの炎症性サイトカインの産生が抑制され、毛包の炎症を鎮静化し健やかな髪の成長を促進する可能性です。
更には、プロバイオティクスの摂取によって、VEGF(血管内皮増殖因子)やIGF-1(インスリン様成長因子1)などの毛包の成長因子の発現を高めるという仕組みによって発毛効果を発揮する可能性もあるとかんがえられていますので、必ずしもひとつのメカニズムによって頭皮・毛髪への影響を議論できる状況ではないようです。
近年、話題になっている短鎖脂肪酸についても抗酸化物質を産生するものがあることが知られており、その効果の可能性も否定できないという見解もあり、そのメカニズムについては、まだまだこれからということのようです。
これらの知見の多くは、動物実験のレベルの段階であるということもありますが、お腹の健康と言われる腸内細菌叢を整えるということの健康に関する様々な可能性の広がりという見方も出来ると思います。
「お腹の健康」と言われてきた、腸内細菌叢を整えることが、脳腸皮膚相関などと言われるように毛髪も含め身体の様々なところと密接につながっているとともに、互いに影響を及ぼし合っていることからすれば、いままで以上にお腹の健康について意識していく事は大切なことになると思います。
2024年06月21日
腸内細菌と脳の発達

近年、脳腸相関という言葉をよく耳にするようになってきました。その背景には、腸内細菌叢と脳との関係に注目した研究が増えたことで、腸内細菌叢が脳の発達に影響を与えることや脳と腸のお互いの相互作用によって大きな影響を与え合うことが解ってきたとともに、健康の維持増進に含めて現代の社会課題の解決につながっていることにあります。
また、それぞれの個体の腸内細菌叢は多くの哺乳類の場合には、無菌状態から一定の期間を経てその個体独自の腸内細菌叢が形成されることは既に解っています。
その腸内細菌叢形成に大きく関わっているのが母乳と考えられているのです。
そして、ヒトも含めた哺乳類は、仔を母乳で育てるという特徴をもっています。
そして、母乳は単なる栄養源だけでなく、オリゴ糖やラクトフェリンなどが含まれると言われていますが、現在の研究では、ヒトの母乳に含まれるオリゴ糖は130種とも250種とも言われており、成長期の生体防御に関するシステムの形成にも寄与していると考えられています。
更に、ビフィズス菌などのプロバイオティクスに分類されるような菌株が分離された事例もあることからすれば、まだまだ未解明のところも多いですが、母乳に含まれる様々な成分によって臓器の形成のみならず、腸内細菌叢の形成にも大きな役割を担っている事がわかってきています。
このような中、国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門・永岡謙太郎教授らの研究グループは、哺乳類が独自に発達させてきた母乳が子の発達に対して持つ新たな知見や腸内細菌叢の形成期における脳の発達との関係に着目し、マウスを活用した実験を行っています。
この実験によれば、母乳中のLAO1と呼ばれるアミノ酸代謝酵素から産生される過酸化水素が腸内細菌叢の形成に関与しているだけではなく、腸内細菌叢由来の代謝物を通じて脳神経細胞の電気活動を安定させるための髄鞘発達に影響を与えている可能性についての報告をしています。
このことは、乳幼児期の腸内細菌叢の形成に母乳が大きく関わっていると同時に、その腸内細菌叢が脳の発達に影響を与えるということであれば、哺乳類に特徴的な母乳が仔の腸内細菌叢形成や脳発達を制御する仕組みのさらなる解明は、将来的には脳の発達を促進する腸内細菌叢の形成への入口にもつながるのかもしれません。
2024年06月13日
歯周病と糖尿病との関係を考える

ギネスブックに認定されている世界で最も患者数の多い病気が歯周病であることはご存知でしょうか。そして、厚生労働省の調査によりますと、日本人の成人の約80%が歯周病に罹患しているとも言われており、歯周病はもっとも身近な病気の一つです。
歯周病と言ってもあまりピンとこないかもしれませんが、歯周病は、虫歯と並んで歯の健康に関する代表的な病気の一つで、歯垢に溜まった歯周病菌が原因となり、歯茎や歯茎の中にある歯槽骨と呼ばれるあごの骨に炎症が起こり、症状がひどくなると骨が解けたり、歯が抜けたりする病気として知られており、「歯を失う最大のリスク・・・」とも言われています。
そして、虫歯と呼ばれる歯のう蝕との大きな違いは、ミュータンス菌に代表される虫歯菌が「歯」への影響にとどまると言われているのに対して、ジンジバリス菌に代表される歯周病菌は菌そのものや、炎症性サイトカインなどの免疫応答物質が全身に行き渡ることで、 脳梗塞、心臓病、誤嚥性肺炎、慢性腎臓病、関節リウマチ、早産・低体重児出産、糖尿病また、近年ではアルツハイマー型認知症にも歯周病が影響を及ぼしているという報告もあり、身体に様々な問題が起こるとされていることです。
その中でも、近年とくに注目されているのが、歯周病と糖尿病との関係です。
東京医科歯科大学岩田隆紀教授によれば、最近の研究では、歯周病が糖尿病を悪化させたり、糖尿病によって歯周病の発症率が2.6倍に高まるという報告もあり、口腔ケアの重要性が高まっているとも言われています。
歯周病菌も虫歯菌も歯の成分であるハイドロキシアパタイトとの親和性が高く、歯にくっ付き易いという性質を持っています。よく勘違いされるのですが、プラークとか歯垢と呼ばれる歯の周りについている汚れは、食べ物のカスではなく、歯周病菌や虫歯菌が出すネバネバの物質で、その中で菌がシェルターの中で集まってるというような菌の塊だと理解していただくことからです。
そのネバネバの菌の塊である歯垢は、食後約8〜24時間で出来ると言われています。その状態を放置してしまうと、2日ほどで石灰化が始まり、2週間ほどで硬くなり歯石へと変化していきます。その歯石のなかで歯周病菌が増殖し毒素を出すとされています。
この毒素によって、歯肉炎となり、歯周ポケットと言われる溝が歯と歯茎の間に出来てしまいます。更に歯を支えているあごの骨である歯槽骨を溶かし始めるのです。
この状態を歯周炎と言いい歯周病が酷くなってきた状態で、歯茎の腫れ、歯磨きの時の出血、口臭という自覚症状が出てき始めます。
このような状態では、歯周病の影響によって炎症反応が起こり、その影響によりIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインが発生します。
その炎症性サイトカインが血流によって全身に拡散することで、インスリン抵抗性を引き起こし、インスリンの効果を低下させ、結果として血糖値のコントロールが難しくなります。これが糖尿病の悪化に繋がるとされています。
また、糖尿病は、高血糖と言われるように血中のグルコース濃度が高くなる病気です。高血糖は唾液中のグルコース濃度も上昇させ、これが口腔内の細菌の増殖を促し、歯周病のリスクを高めます。
それだけでなく、糖尿病は、毛細血管を中心とした微小循環を阻害すると言われています。その影響で歯茎への血流も減少し、酸素供給や栄養供給が不足し、歯周病が進行しやすくなるというような相互に悪影響を与え合うという悪循環の関係が歯周病と糖尿病にはあるというのです。
実際に、歯周病の治療によって、HbA1c が低下し、糖尿病が改善された事例もあり、糖尿病患者は歯周病の治療を受けることで平均してHbA1cの値が0.4低下したという報告もあると言われており、この悪循環を断ち切るには、食生活の改善だけでなく、まずは口腔内環境を整えることが、症状改善のためには大きなメリットがあるとされています。
特に、生活習慣病であるⅡ型糖尿病が改善しない方は、「歯周病の検査及び治療は有効と考えられていると同時に、薬を使用せずにHbA1cの値が低下することについても大きなメリットと考えることができます・・・」と岩田隆紀教授は述べています。
歯周病と糖尿病というこの二つの関係は、食習慣だけでなく、日常の口腔ケアが生活習慣病の予防にもつながることを理解し、実践してみることは大切だと思います。