身体のチカラ › 身体のしくみ › 食べ物を選ぶ › 肥満と抗生物質と腸内フローラ

2018年01月13日

肥満と抗生物質と腸内フローラ

肥満と抗生物質と腸内フローラ


 2014年に元ゴールドマン・サックスのエコノミストが、「抗菌薬耐性細菌のために現在世界全体で毎年70万人が死亡している。現在の状況がこのまま続くとすれば、2050年にはその数は1000万人に及ぶだろう。」という報告をしています。

 その中でも、最も死亡者数が多くなると予想される地域はアジアで、470万人。アフリカの410万人を越える数字が示されています。

 私たち人類が「抗生物質」の恩恵にあずかるようになってから、およそ70年ですが、「耐性菌」というものにおびえながら、「抗生物質を開発した以前に、戻ろうとしている。」という警鐘を鳴らし始めています。

 この事は、第26回腸内フローラシンポジウムでもニューヨーク大学医学研究科のMartin J.Blaser教授が、「米国での抗生物質の使用分布と肥満との相関関係」を示し、抗生物質様々なリスクに対しても報告されました。

 今まで、「肥満」というものは、「摂取カロリー」と代謝などによる「消費カロリー」との差がうまくいかずに、「摂取カロリー」多いために脂肪が蓄積した状態という考え方が多くを占めてきましたが、近年では、どうやらそうではないようです。

 「肥満」という状況を「炎症反応」で考えることが重要だというのです。

 つまり、「肥満」というのは脂肪組織に慢性的に炎症が起きている状態なので、正常な代謝が阻害されてしまう状態だというのです。
その炎症が脂肪細胞の新生を妨げてしまい、既存の細胞に対して、過剰な蓄積を招いてしまい脂肪組織が果たすべき機能が不全に陥ってしまう状態を指すと考えている研究者が増えているそうです。

 この考え方の方が、肥満が引き起こす様々な合併症や感染症が減少した時代での、自己免疫疾患やアレルギー性疾患対する因果関係も含めて説明がつくという考えもあるようです。

 一方で、畜産業界では古くから家畜を大きく育てるために抗生物質を使用しています。こうした抗生物質の使用は、「抗生物質についての短期的副作用はあるものの、長期的影響はほとんどない・・・」という共通認識が経済合理性の追求という意味からも「当然の選択」として行われてきたのです。

 しかし、抗生物質が「何故、家畜を大きくするのだろうか・・・」という明確な答えはいまだないという現実もあります。

 このメカニズムの解明についても、前出のMartin J.Blaser教授は取り組んでおり、「治療量以下の抗生物質を生後早期にマウスに与えると脂肪量が15%増加する」という研究報告もしています。
この研究については、抗生物質の種類に関わらず多くの抗生物質に於いて同様の結果になったという内容も同時に報告されています。

 「抗生物質」の大きな作用としては、生体内の細菌を死滅させることになります。そのために体内の微生物フローラが攪乱された状態になってしまいます。経口投与の多い抗生物質では消化器系の腸内フローラの攪乱は避けがたい状況になってしまいます。

 いいかえれば、生体内の微生物フローラの攪乱によって、脂肪の炎症にもつながり「家畜を大きくするという形で可視化された・・・」という理解もあながち間違いとは云えないのかもしれません。

 「肥満」、「抗生物質(アンティバイオティクス)」、「腸内フローラ」この、一見つながりが無さそうであった3つのキーワードのつながりが、今後注目される日も遠くないかもしれません。



同じカテゴリー(身体のしくみ)の記事画像
腸内細菌叢とメンタルヘルス「パーキンソン病に関する研究事例」
プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか
マイクロプラスチックとリーキーガット
男性更年期障害と腸内細菌
「我が家の味」と腸内フローラ
腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅡ
同じカテゴリー(身体のしくみ)の記事
 腸内細菌叢とメンタルヘルス「パーキンソン病に関する研究事例」 (2025-03-07 16:52)
 プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか (2025-02-28 10:21)
 マイクロプラスチックとリーキーガット (2025-02-14 09:19)
 男性更年期障害と腸内細菌 (2025-02-06 14:52)
 「我が家の味」と腸内フローラ (2025-01-24 13:55)
 腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅡ (2024-12-20 16:46)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。