2020年09月18日
歯周病菌と腸内フローラ

意識している人は、意外と少ないかもしれませんが、口腔内には大腸に次ぐ高い密度の微生物が共生していて、その微生物群が病原性の細菌の定着の阻止や、様々な抗体をつくるための誘導をおこなうことで口の中の健康を保っていることはご存知でしょうか。
つまり、口の中の衛生状態が悪化したり、食事の影響によって口腔内の細菌叢が乱れてしまうことで、歯のう蝕の原因となるミュータンス菌や歯周病の原因となるジンジバリス菌などが増殖し、症状となって表れてしまいます。
また、口腔内は消化管の一番の入口として口腔内菌叢と腸内フローラとの関係についての関心はあったものの、あまり進んでいないという現状もありました。
健常な人の場合、1日に1000~1500mlの唾液を飲み込んでいるといわれています。さらに、歯周病菌のジンジバリス菌の口腔内菌叢に占める割合は0.8%程度とされていますので、毎日、10~100億個の歯周病菌をお腹の中に取り込んでいることになりますし、細菌全体としては約数兆個の細菌を毎日飲み込んでいるという事になれば、「腸内細菌に対して何も影響を与えない・・・」という事にはならないという仮説を立てる人も少なからずいるはずだと思います。
さらに、現在の研究によれば口腔内と消化管内では酸素の量など様々な環境の違いがあるために、嫌気性や好気性などの特性も含め構成が大きく異なることも解っていますので、それぞれの関わりについては、関心事の一つといえます。
新潟大学大学院の山崎和久教授によりますと、歯周炎の症状のある方の口腔内菌叢の特性が腸内細菌叢に少なからず影響を及ぼしているという事だそうです。
山崎和久教授は、中程度から重度歯周炎患者29名と全身的に健康であり且つ、歯周組織に問題のない23名、双方の便と安静時の未刺激唾液を採取し、PCRも含めそれぞれの菌叢の解析を行っています。
その結果、それぞれのグループの唾液内の細菌叢に違いがあり、腸内菌叢になりますと健常なグループではファーミキューティス門の細菌の比率が高く、歯周炎患者のグループではバクテロイデス属やクロストリジウム属の比率が優位に高いという報告をしています。
さらに、歯周炎患者の腸内細菌叢ではディスバイオーシスと呼ばれる細菌叢のバランスの乱れが起きているということからも、唾液を通じて大量に入り込んでいると考えられる、口腔内からの様々な細菌の影響は無視できないといえるのかもしれません。
さらに、腸内細菌叢のディスバイオーシスについても様々な疾患との関連性が明らかになりつつあります。特に腸内細菌叢の多様性の欠如に関しては、脳腸相関も含めて様々な精神疾患との関連性が注目されていますし、血液中の様々な代謝物にも影響を与えることによって疾患リスクが高まるという事が考えられます。
特に、最近では歯周病原因菌であるジンジバリス菌と糖尿病と負の相乗効果や、マウスの実験でもジンジバリス菌の口腔投与による関節炎の重症化など、口腔内細菌叢の乱れが、腸内細菌叢の乱れに繋がり、様々な疾患のトリガーとなっている可能性についても知見も進んできています。
毎日、唾液と一緒に飲み込んでしまっている数兆個の様々な微生物についても、「あさイチ歯磨き」の習慣も含め、気にかけてみる必要があるのではないでしょうか。
Posted by toyohiko at 10:30│Comments(0)
│身体のしくみ