2019年05月03日
ディスバイオーシス(バランス失調)という考え方

ディスバイオーシスという言葉を聞いたことはありますでしょうか。この言葉は、私たちの身体の中や、表面に存在する様々な微生物集団のバランスが乱れた状態を示す言葉として近年注目を集めているようです。
実際に、消化管をはじめとする様々なところに、微生物が存在し共生関係ともいえるような状況になっているという事については、腸内フローラという言葉の普及なども含め多くの方々になじみのあるものになってきたと思います。しかし、その構成や状態については、まだまだ未知のところが多く多くの研究者にとって関心の高いところであることも事実です。
男性に多いとされる、神経性の下痢についても腸管内のディスバイオーシスが原因になっているという事が、科学的にも解明されつつあるそうで、コロラドボルダー大学のChristopher A.Lowry准教授によりますと、心理社会的ストレスが腸内細菌叢をかく乱し、病原性の菌株の増殖とともに炎症を誘導することが解ってきたという報告もあります。
この事例では、Tregといわれる免疫細胞の活性化が抗炎症性サイトカインと呼ばれる物質の生産を増加させてしまい炎症の結果、下痢の症状になってしまうという事のようですが、研究によれば、その症状を緩和するための微生物群(この実験では、免疫調整に関わるために死菌を使用)を投与することで、炎症の緩和とともに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状の進展が抑制されたというようなこともあったようです。
Christopher A.Lowry准教授は、この結果について、精神疾患と免疫調整不全との関係性に腸管内のディスバイオーシスが密接に関わっている可能性について非常に高い関心を示しているようです。
また、慶応義塾大学病院消火器センター長の金井隆典教授によりますと、ディスバイオーシスの原因について「衛生的になりすぎている、現代の生活スタイル・・・」という考え方のもと、腸内細菌の細菌の数の減少と、種類の減少についても警鐘を鳴らしていると同時に、このような現象と相まって日本国内で増加傾向にある炎症性腸疾患や過敏性腸症候群というような腸管の症状だけではなく、関節リウマチや精神性疾患、アレルギー、肥満、動脈硬化など、現在問題になっている様々な疾患との関連性について無視できない状況にあると考えているようです。
例えば、マウスの実験において、加齢による脱毛の状況と腸内細菌叢との関係についても特定の細菌の増加という、いわゆるディスバイオーシスの状態が確認されているということなのです。
金井隆典教授は、近代化した生活様式による過度の衛生観念と抗生物質の多用が微生物相のアンバランスを引き起こし、様々な炎症や代謝異常にまでにつながるような物質の産生が促されたり、そのような物質を代謝する微生物が優勢になっている可能性も否定できないというように述べています。
以前、ニューヨーク大学医学研究科のMartin J.Blaser教授の研究で、世界中の抗生物質の使用量と肥満との関係性について大きな相関関係があると同時に、喘息、若年性糖尿病、炎症性腸疾患、食物アレルギーなどの疾患が、近年同じタイミングで拡大しているという事象に社会的にも大きな課題として、もっと目を向ける必要があると述べていたこととも一致してきます。
このような考え方からすれば、単に「おなかの調子が悪い・・・」という事だけではなく、腸内環境の乱れが様々な健康維持に関わっているという考えのもと、食事やそれにかかわるライフスタイルの大切さ、抗生物質をなるべく使わなくて済むような健康管理は思っている以上に重要なのかもしれません。
Posted by toyohiko at 15:25│Comments(0)
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