2021年03月26日
「味覚は何のためにあるのか・・・?」を考える

日頃、様々なメディアで美味しそうな料理などを紹介するグルメ番組を良く目にします。これは、「美味しい・・・」と感じることが単なる味覚の話ではなく、生活の上での「満足」であったり「幸せ」・・・にも関わってきていることを多くの方が解っているからだと思います。
そもそも、この味覚というものはなぜ必要なのでしょうか・・・?
ご存知の通り、味覚で一番大切な機能は食物を摂取したときに「害があるか、無いか・・・」を見極めるための大切なセンサーです。
苦みやえぐみと言われるような感覚は、食物そのものの毒性が強かったり、細菌などの影響によって人体に悪影響をおよぼす物質が混ざっていないか・・・?という事を見極めるセンサーとして機能しています。
果たして、味覚は外敵からの危機管理能力としてのみの機能なのでしょうか・・・?
そのことからすると、「食べられる」というシグナルが「美味しい」というだけでは説明がつかないこともあるような気がします。
もし、「食べられる」ためだけのセンサーであれば、食べ物の美味しさを味わったときの「満足感」や「高揚感」のようなものは説明がつかないと考えることもできるからです。
その一方で、ありとあらゆる食べものが独特の味や香りをなす味覚の多様性についても、食事中に食べる人たちを飽きさせないためにあるという事ではないと考えるのが普通です。
シドニー大学生命環境科学部栄養生態学のデイヴィット・ローベンハイマー教授は、著書「EAT LIKE the ANIMALS」の中で、あらゆる食物の「こうした特徴的な風味は、食品中の化学成分、すなわち栄養素を示してる・・・」と述べています。
デイヴィット・ローベンハイマー教授は、「様々な栄養素が身体にエネルギーを供給し、身体の中での重要な機能を果たすうえで、それぞれ異なる役割と意味を持っていることを考えれば、それらを判別し、食品に含まれているかどうかを検出する能力を、自然が私たちに授けたことは何ら不思議ではない・・・」とし、この能力で、何を食べるべきか、避けるべきかを判断している述べています。
言い換えれば、適切な食べ物を探す必要性があるからこその機能とも考えられるのです。
必要な栄養素を見極めることが必要なのは、人間以外の生物も同じです。例えば、ハエの仲間は糖とアミノ酸を脚や腹部の先端で感じ取ることが出来るとされています。
さらに、ヒトの「必要な栄養素を見極める機能としての味覚」は、舌だけでなく消化管の中にも味覚センサーとしての受容体があることは以前にも紹介しましたが、消化管の全長に渡り必要な栄養素を追跡し続けているという事も解明され始めているとともに舌の味蕾以上に重要な役割をしてる可能性があります。
確かに、必須栄養素という言葉の裏を返せば・・・「摂取しなくても良いが必要な栄養素」があります。その栄養素の多くは腸内細菌をはじめとする共生微生物が産生することでその役割をしてくれており、その代表選手が短鎖脂肪酸で大腸のなかで多く産生されるとされています。
また、下痢という仕組みも腸管内に健康を害する成分が検出されたときに、体内に吸収される前に速やかに体外に排出する目的によって起こります。こうして考えれば「健康を害する成分を検知する受容体」があったとしても何ら不思議ではありません。
そのような現実を考えれば、必要な栄養素を身体全体で把握するためには腸管全体のみならず、無機塩類を含む微量元素などの栄養素を検出する機能を全身に持つことで、「空腹感」や「満腹感」「何が食べたい・・・」などの様々な欲求に関わる「総合的な食欲システム」が出来上がっているのかもしれないと考えれば、「味覚」に関する認識も変わってくるのかもしれません。
Posted by toyohiko at 16:48│Comments(0)
│身体のしくみ