2021年04月30日
腸内細菌と自閉症スペクトラム

物事に対するこだわりの強さなどが原因となり、対人関係がうまくいかないというような場面はあると思います。この「こだわり」の強さが原因で生活に支障をきたしたり、さらには福祉や医療のサポートが必要な状態になるなど様々です。このような症状は、発達障害の一つと考えられており、自閉症スペクトラム(ASD)と呼ばれています。
この自閉症スペクトラムについては、最近の調査などによると、子どもの20人から50人に一人の割合で自閉症スペクトラムとの診断がなされるとともに、男性が女性の2~4倍と男性に多く見られるという事も解ってきています。
また、人間の気分や行動、神経発達に対して、脳と腸の間での迷走神経、免疫系、代謝系についても腸内細菌叢―腸―脳軸相関と呼ばれるような相互に影響を与え合っている関係性があることが明らかになってきました。
慶應義塾大学 精神・神経科学教室 黒川駿哉特任助教らの研究グループによりますと、ASDの症状とみられる多くの場合において腸内細菌のディスバイオーシスがみられることが報告されています。
ASDの症状を持っている場合に於いては、アレルギーなどの免疫異常や特定の酵素が欠損している事や、代謝の働きに対して障害があり、物質が体内に欠損したり過剰に蓄積することで様々な症状を引き起こす代謝異常などと共に、便秘や下痢に代表される消化器症状などの様々なASD以外の症状との併存率が23~70%と幅はあるものの、高い確率でASDの診断をなされた場合と同時並行的に症状が見られると報告されています。
また逆に、消化器症状のある子どもには、苛立ち、社会的引きこもり、同じ行為・言語・姿勢などを長時間にわたって反復するような常同性や多動の傾向が強いという報告もあり、 ASDの重症度と消化器症状の重症度に関しても相関係数0.59と非常に強い相関とは言えないものの、ある程度の相関があるという結果もあります。
消化器症状だけでなく、消化器内の状況についても、ASD症状のある子どもの便中の短鎖脂肪酸量は健常な子どもと比較すると全体的に低く、なかでも、ビフィドバクテリウムなどの善玉菌が産生すると言われる酢酸やプロビオン酸、吉草酸が優位に低い共に、腸内細菌の多様性が低く神経毒性のある有機溶媒でもあるイソプロパノールの量が高かったという結果も報告されています。
腸内細菌の多様性や短鎖脂肪酸などの代謝産物がASDに対するバイオマーカーになりうる・・・という考え方まで出てきています。
無菌マウスと通常マウスの菌叢を移植したマウスとの比較した実験でも、菌叢を移植したマウスの方が血液から脳組織への物質の移行を制限する仕組みである血液脳関門の透過性亢進の減弱がみられたことに加え、腸内細菌の代謝産物で短鎖脂肪酸の一つでもある酪酸の投与によって血液脳関門の透過性が減少したという報告があります。
これらのことは、脳腸相関の関係の中で腸内細菌の代謝物である短鎖脂肪酸が需要なキーを担っている可能性を示しているのかもしれません。
脳腸相関を始め、脳の働きと腸との関連性については、多くの関心が集まってきているとともに、新たな知見の解明も進んできています。
今回のように、自閉症スペクトラム(ASD)に関して言えば、「鶏が先か、卵が先か・・・?」という問題は残っているものの、「お腹の健康・・・」に総称されるような消化器症状との高い相関関係が明らかになっていることからすれば、プロバイオティクスやプレバイオティクスを活用しながら、現状の「消化器症状の緩和を目指す・・・」というアプローチもASDも含めた脳の機能に関する発達の課題解決についての可能性も示唆されたという事が言えるのかもしれません。
Posted by toyohiko at 16:17│Comments(0)
│身体のしくみ