2021年08月28日
環境負荷とプラスチック

カーボンニュートラル(脱炭素)の流れとともに、「海洋中のマイクロプラスチック」という話題は、今後、真っ先に対応しなければならない私たちに課せられた環境保全に対する課題として多くの方から注目を寄せられている社会的課題の一つです。
カーボンニュートラルについても地球温暖化という視点だけでなく、近年では大規模な気候変動を起因とした水害をはじめとする様々な災害や、都市化によるヒートアイランド現象との複合的な問題などが複雑に入り組んでいるために、解決に向けてのアプローチは一つではありません。
一方、「海洋中のマイクロプラスチック」の問題についても、様々な要因がありますので、ある意味課題の切り分けが必要になります。
例えば、プラスチックが海洋中に流出しないという課題と、流出してしまっても他の自然素材のように通常の環境下にあるような一般的な微生物によって生分解されるような素材を積極的に利用するという課題です。
確かに、現状のプラスチックでも特定の微生物によって生分解するというような報告もなされていますが、通常の環境下という条件をクリアしなければ問題の解決につながりませんし、もし仮にそのような微生物を環境中に散布するようなことがあれば、その微生物による二次的な予測できない環境への影響を考えれば現実的ではないことは容易に想像がつきます。
そこで、注目されているのが「海洋生分解性プラスチック」と呼ばれるものです。このような素材は代替プラスチックとも言われ、環境への負荷軽減のためには多くの期待がかかった技術であることは間違いありません。
大阪大学大学院応用化学の宇山浩教授によりますと、これまでに日本で開発された海洋性分解性プラスチックは脂肪族ポリエステルに分類され、従来のポリエチレンやポリプロピレンといった既存のプラスチックと比較しても、品質が劣るばかりか、価格が2倍以上と高く、さらに生産量が少ないというような課題がありました。
現在は、安価で流通しているバイオマス資源に着目し、トウモロコシやイモ類に含まれる澱粉とセルロースに着目し、同じ厚さの既存製品と比較して2倍以上の強度と透明度をもつプラスチックフィルムシートの開発が成功したという話も出てきています。
その一方で、通常の使用での耐水性は問題ないものの、環境中のどのような微生物に対して生分解が進んでいくのか・・・、その時に使用環境に制限があるのか・・・、さらには、数年前のブラジルでのバイオエタノールブームの時のように、各国間での利権争いや、作物をつくるときの大量の水への負荷など様々な課題があります。
使用済みプラスチックのリサイクルに対しての考えかたでも、各自治体のごみ処理焼却炉の燃焼温度が低かった時代には、ダイオキシンの問題が話題になり、「プラスチックを燃やす=ダイオキシンの発生」というイメージが出来上がってきました。
その問題を解決するために、高温で焼却可能な焼却炉の導入が進み、有害ガス発生の抑制が可能になったと同時に、水分を多く含んだ生ごみが燃焼温度を下げてしまうという理由で、重油を使用する時代が訪れ、マテリアルリサイクルが不可能なプラスチックをサーマルリサイクルとして活用することもありました。
その後、課題となった生ごみをバイオマス発電として利用する自治体では、従来の焼却炉の燃焼温度が上がり過ぎて劣化が予想以上に進んでいる事など、課題の解決に向けて様々な問題が複雑に絡んでいることも解ります。
海洋生分解プラスチックの普及についても、世間で注目されるのは環境への課題解決のための技術よりも、価格だったりします。
しかしながら、海洋中に流出するプラスチックという問題だけを考えれば、家庭での化学繊維を洗濯したときの繊維片や、道路を走行するときに出るすり減ったタイヤ片を除けば、多くの原因をなっているのが、「ポイ捨て・・・」です。
もちろん、限られた資源である化石燃料をしっかりと次世代に温存していくための技術開発はもっとも大切なことの一つです。
石油由来の化学繊維片の問題であれば、フィルター付の洗濯機などや天然繊維でてきた衣料品を大切に着まわすなど出来ることはあるはずです。
SDGsが世間で多くの関心を集める中、「個人レベルの不法投棄」である、「ポイ捨て」に起因する環境問題が社会の大きな課題になっている・・・という現実を、「海洋生分解プラスチックの開発という解決方法だけで本当に良いことなのか・・・?」ということを多くの人たちが考えていく必要があるのかもしれません。