2021年11月19日
脳と腸内細菌の代謝物との関係を考える

腸内細菌が様々な物質を産生することが知られていますが、その中で、もっとも重要だといわれるものの一つとして短鎖脂肪酸があります。
この短鎖脂肪酸は、難消化性の糖の一つであるオリゴ糖や食物繊維を栄養源として、善玉菌と呼ばれる仲間や日和見菌と言われる仲間が善玉菌と同じ働きをした時に代謝物として腸管内に出てくる物質です。
具体的には、酢酸、酪酸、プロビオン酸などの「酸」の一種です。消費者庁によるオリゴ糖のカロリー計算の算出方法などを見ても、糖として吸収されるのではなく短鎖脂肪酸に換算し、糖としての熱量の半分として計算する方法が指定されていることからしても、腸内細菌によってもたらされる短鎖脂肪酸の働きは、すでに多くの場面で認知されていると考えることができます。
また、東京農工大の木村郁夫氏の研究によりますと、腸内細菌によって産生される短鎖脂肪酸が交感神経節の脂肪酸受容体GPR41を活性化し、交感神経活性化によるエネルギー消費の増大を促したり、脂肪酸受容体GPR41を介した全く新たなエネルギー調節機構があるという報告もあります。
また、脂肪酸受容体GPR41については、パーキンソン病との関係も注目されており、様々な研究もおこなわれています。
パーキンソン病は、黒質のドーパミン神経細胞の変性に伴う神経変性疾患として知られています。また、多くのパーキンソン病患者が慢性便秘症を併発しているともいわれています。
パーキンソン病患者は、2030年には世界で1,000万人にも上るとされており、青斑核と呼ばれる脳の中枢神経内にある神経核に、腸管神経叢に異常蓄積した物質が迷走神経を通って発症することが明らかになっています。
同時に、様々な実験において便中の短鎖脂肪酸の減少傾向が見られることも指摘されています。腸内細菌によって代謝される短鎖脂肪酸とパーキンソン病との関係については、名古屋大学の浜口知成特任教授による研究によりますと、腸内細菌によって産生された短鎖脂肪酸が、脂肪酸受容体GPR41を介してパーキンソン病の症状を緩和させる可能性を示唆しています。
一部の遺伝性パーキンソン病では、細胞の中で機能不全に陥ったミトコンドリアの分解が起きにくいことが知られています。どのようなメカニズムで機能不全ミトコンドリアが残ってしまうかは不明であるが、今後、GPR41とミトコンドリアとの関係性によって、このメカニズムの解明の糸口になるとしています。
脳腸相関を始め、脳に関する様々な機能と、腸との関係性について多くの関心が集まっていますが、「器官としての腸」だけでなく、「腸内細菌叢も含めた腸」が短鎖脂肪酸を含めた代謝物であったり、セロトニンなどのホルモン物質と大きな関わりを持つことで、脳機能の恒常性をサポートしていることが次第に解ってきました。
「たかが、お腹・・・」ではなく、食事を含めお腹の健康を中心に考えたライフスタイルは、想っている以上に大切なのかもしれません。
Posted by toyohiko at 09:11│Comments(0)
│身体のしくみ