2022年09月02日
学びと健康との関係を考える

「小・中・高の12年の教育を修了していない人は12年すべて受けた人に比べて死亡率が2倍高い」というような研究報告があるそうです。このように、一見、関係が無さそうな、「教育」と「健康」という二つの関係について関心を寄せている研究者も多いと言われています。
その多くは、教育の格差によってもたらされる食生活の格差や、予防医学に基づいた生活習慣などによって引き起こされる可能性と考えられています。
医師で医学博士の東京大学大学院医学研究科社会医学専攻公衆衛生学分野特任研究員の柳澤綾子氏によると「小中高の12年の教育をすべて受けていない人は12年すべてうけた人に比べて死亡率が2倍高い」という結果について、「それなら教育歴12年以上というカテゴリーにみんな入ったら死亡率が半分になるんでしょ? じゃあ、全員義務教育で小中高校と、12年やったら長生きするじゃない? その中でさらに保健の授業を増やしたらみんな健康になるでしょう?」ということではないと指摘しています。
12年間の教育を受ける中で、知識などの認知能力のみでなく、「自分の未来を予測する力」でもある「非認知能力」が身についているかどうかという事が重要なのだと言います。
例えば、特定の疾病に対して、どのような合併症があって、その症状がどのように変化していくのかといった知識があるからと言って、病状が改善するわけではありません。
知識そのものより、その知識に伴い「将来、自身の身体に起こりうるリスク」に対してリアリティをもって、あらかじめ自身をコントロールするチカラがなくては意味がないという事になります。
特に糖尿病などの生活習慣病も含め、自覚症状がないまま進行していく疾病は少なくありません。
しかしながら、その後をイメージする力が欠如したままだと、行動の変化が伴わない為に、病状がどんどん進行してしまうというわけです。だからこそ知識を単なる知識として終えるのではなく、「自身の行動」につないでいく事で、自身の健康状態を維持向上させるというような非認知能力が備わっているかどうかが重要だというのです。
つまり、「知ってはいるけど・・・、やらない」という事では、どうしようもない。という事になりますし、このような差が、教育の差によって引き起こされ、ひいては健康状態の格差にもつながってしまうと考えられているというのです。
「そんな、大げさな・・・」と思われる方もいるかもしれませんが、「非認知能力」の差は、目先の欲求に対する対応の差に大きく関係しているともされています。
子どもに対して、今すぐ食べてしまうならお菓子を2個だけ、もう少し待てるなら3個あげるという条件を提示する実験などで、すこしでも待てばたくさんもらえるのに、今ある目先の快楽に負け、多くの子どもがお菓子を2個食べることを選択してしまうのと同じような話です。
このような実験の事例でもありますように、未来により大きな利益があると頭では理解していても、思わず目先の欲求に負けてしまう人が多いというのが現実です。
身体に悪いとわかっていてもタバコを吸ってしまったり、お腹が空いていると目の前の食べ物やアルコールを暴飲暴食してしまうことも同じです。
さらに、このような非認知能力の差は、人間関係にも表れることがあるとされています。
自己中心的な思考や、短絡的な対応を優先してしまいがちになる事で、孤立につながってしまうようなケースは、その一例ともいえます。
「友人が居ない人は、タバコを1日に2~3箱吸うのと同じくらいの健康リスクを抱えている」とも言われていますが、非認知能力の差が孤立を招き、健康にも影響を及ぼしてしまうという認識は大切なことの一つだと思います。
「病気になる前に、病気にならないために・・・」を基本とする「予防医学」という考え方は、良く聞かれるようになりましたが、その一方で、「わかり難いものを、大切にする・・・」という、大きな壁があるのかもしれません。
そのためにも、「先を見通すチカラ」でもある、非認知能力を高めるための学びが、健康の維持向上にもつながることを理解する必要があるのかもしれません。