身体のチカラ

　スローフードという言葉は、日本国内でも随分認知されてきたように思いますが、このスローフードと言うのは食品そのものを指すのではなく、“スローフード運動”という人と社会の関わりそのものということが特徴的です。

　スローフード運動発祥の地イタリアでは、ローマ帝国時代から続いてきた各地の食文化や伝統を守りながら地域の伝統守りながら、特徴ある料理を国内外から訪れる人たちに提供することをすすめています。
反対を意味する言葉は、ファストフードということになりますがファストフードと言えば、「安い」「早い」「うまい」の3つのキーワードが頭に浮かぶ人も多いと思います。

　現に、25年ほど前のイタリアでもマクドナルドが入ってくるなど、食文化のアメリカ化が進むにつれて、安い食材を求めるような動きが出てきました。多くの消費者が安い食材を求めるようになったことで、農家は手が掛らずに安いコストで、かつ短期間で生産できる農作物を作るようになってしまったそうです。

　そんな時、後にスローフードインターナショナルの会長にもなったカルロ・ペトリーニ氏は、「毎日食べているものが、美味しくなくなっているのでは・・・」という危機感を抱いたそうです。
カルロ・ペトリーニ氏は、自国の食文化を守るためには、手間暇かけた地域の食材を大事にすることが必要だと訴え、出身地のトリノ近郊で運動を立ち上げたものが、「スローフード運動」として全国に広まりました。

　当然、食材価格にはそれなりの理由があります。その食材にかけた手間暇や味など色々な要素が複合的に加わって価格という形で価値が決まってきます。手間暇等は、比較的わかり易いのですが、問題は「味」という要素をどうとらえるかということも大切かと思います。

　例えば、日本でも畜産加工品の代表とも言われるハムの場合、加水処理をして食感を柔らかくしているものが多いのが現状です。特に日本では、「美味しい＝柔らかい」という概念が強いために、真面目に手間暇かけて作ったものの方が「堅い」という評価になってしまい、食べる側の人たちが食材本来の良さを知らないために評価されなくて良い商品を作る必要が無くなっているという傾向が出てきているという話も耳にします。

　食材だけでなく加工品の価格についても同じようなことが言えます。人間の味覚は、「甘み」と油脂の「旨味」に「美味しい」という反応をするように出来ています。これは、身体を維持するためにも大切なことです。
そのために、ほとんどの加工品は通常家庭で調理する料理に比べて、これらの「甘み」や「旨味」を強調するような成分が多く入っています。それだけであれば、あまり問題がないのですがより安く、少量でその効果を得るために化学的に合成されたものが当たり前のように入っています。
これらのものは、安全とされているものもあれば、よくわからないままに流通しているものもあり、危機感を訴えている人たちがいることも事実です。しかも、それらの化学合成された安いものを口にして、「美味しい」と感じている現状があるということです。

　いっぽうで、スローフード運動発祥の地イタリアの人から見たときに日本の食文化で不思議に思うことがあるそうです。それは、海の近くでも、山間地でも都会でも同じメニューが並んでいるということだそうです。
　イタリアでは、3食ともに家族で食事をし、外食はあまりしないですし、昼食も多くの人が外出先から一度帰宅してとるのが普通になっています。それに対して、日本の場合は全国どこに行っても似たようなチェーン店に代わり映えのしないようなメニューが並び、人によっては、それを安心感と称賛しているというような生活習慣の違いもあります。

　日本でも、「地産地消」という言葉とともに地域独自の食材や食文化というものが見直されつつありますが、食の安全という観点からも、スローフード運動の歴史を紐解くことによっていろいろなものが見えてくるような気がします。